フリーフォール ジョセフ・E・スティグリッツ著

大不況の原因、政策の失敗を指摘

一昨年の米国での金融危機に端を発する、「フリーフォール」(急降下)と著者が呼ぶ大不況を世界経済にもたらした原因に迫るとともに、政策の失敗を厳しく糾弾している。

(徳間書店・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

規制緩和と金融工学発展の恩恵を受け、金融機関は住宅ローンを担保に複雑な金融商品を開発・販売し、住宅バブルを引き起こす。金融機関は悪質な儲(もう)け主義に走り、規制当局の失敗や低金利政策などもからんで、事態はさらに悪化の一途を辿(たど)る。しかし、いつまでも続くはずはなく、住宅バブルの崩壊をきっかけに、金融機関の経営は苦しくなり、遂(つい)には経営破綻に陥り、実体経済まで破綻に追い込んだ。

こうした事態をもたらした背景として、自由市場への過剰な期待、規制をしない小さい役割に徹しようとした政府の政策、一部の経済人の強欲な高所得指向、粗末な企業統治などにその原因があると著者は主張。これらは、米国の資本主義の欠陥であると結論づけている。

同世代の研究者である評者にとって、著者は学界のスターだった。学者の枠にとどまらず、政府や世界銀行で実際の政策を担当したし、マスコミでの発言も目立つ、現在でも影響力の大きい学者のひとりである。今回の危機への対応策について、彼の広範囲な経験と見識が存分に披瀝(ひれき)されていて、実に小気味よい。

その中でも、どうしても経済学への言及に評者の関心は集まる。著者は市場競争に任せておけば経済は効率的に運営されるし、景気の悪化は自動的に回復すると考える新古典派経済思想に異を唱え、賢明な政府の役割に期待するケインズ経済学を称(たた)える。さらに、情報の非対称性があり、外部性や公共財が存在するような世界では、市場経済に頼るだけではダメで、政府の規制や政策の関与の必要性があると訴えている。

評者もこの説に賛成だが、政府の失敗(裁量的な政策の失敗)は歴史の語るところで避けられないという新古典派経済思想の立場からの反論は過去の経緯からいっても、無視できないだろう。そろそろ政府も賢明であってほしいと願うのは、評者だけではあるまい。

(同志社大学教授 橘木俊詔)

[日本経済新聞朝刊2010年4月11日付]

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