ずる ダン・アリエリー著

日常に潜む小さな不正を考察

私たちは毎日の生活でどの程度、清廉潔白だろうか。ほとんどの人が自分は正直者だと思っている。しかし、さまざまなウソやごまかしが絶えないのはなぜなのか。例えば、会社に提出する接待費の申請で、参加人数をひとりだけ多く申請してしまった、というようなことはないだろうか。

(櫻井祐子訳、早川書房・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

行動経済学者である著者は、人々は本当にごまかしをするのか、様々な実験を敢行する。得られた重要な知見とは、大多数の人々は大きな不正はしないが、ちょっとしたごまかしをする、というものである。では私たちはどのようにごまかすのか。私たちは置かれた条件のいかんにかかわらず、ちょっとずつごまかす。伝統的な経済学が教えるように、ごまかした結果として支払わなければならないコストと、得られる便益とをはかりにかけて、合理的に判断してはいない。

なぜ人々はこのようにごまかすのか。著者が立てた仮説は「つじつま合わせ仮説」。私たちは自分を正直で正しい人間だと思いたい。同時に、ごまかしから利益を得て得をしたい気持ちもある。この矛盾する両方をバランスよく成り立たせる結果、私たちは「ちょっとだけごまかし」をするのだ。

日常の小さな不正を防ぐ手立てはあるだろうか。「倫理規定」だけでは効果はない。効果が高いのは「ちょっとした戒め」だ。つまり不正への誘惑にかられた瞬間に、道徳規定を思い出させるやり方である。例えば、倫理規定に従うと作業に先だって署名させる方法がある。実験に参加した学生は大学の倫理規定に従うという署名をして作業した結果、より正直に行動したことがわかった。彼らが所属する大学には倫理規定が実は存在していないにもかかわらず。

本書は世界的ベストセラーとなった『予想どおりに不合理』の著者の最新作。わかりやすい筆致と、親しみやすい内容は相変わらずだ。本書での発見を通して、日常に潜む様々な小さな悪と、結果として積み上がる経済的非効率性を解決する方策について重要な手掛かりが得られるだろう。またここで示されたリアルでかつ、説得力のある実験手法にも注目したい。

(中央大学教授 田中洋)

[日本経済新聞朝刊2013年2月3日付]

ずる―嘘とごまかしの行動経済学

著者:ダン アリエリー, Dan Ariely.
出版:早川書房
価格:1,890円(税込み)

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