流星ひとつ 沢木耕太郎著

時代を生ききった女性の輝き

1979年秋、沢木耕太郎が、藤圭子にインタビューをした。沢木は31歳、浅沼稲次郎暗殺事件を描いた傑作『テロルの決算』を発表した翌年である。藤は28歳で、引退を間近に控えていた。

(新潮社・1500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

10年間を芸能界で暮らし「インタヴューなんて馬鹿ばかしいだけ」というスター歌手と「いや、インタヴューというのは、そんなに馬鹿にしたものでもないと思うけどな」というノンフィクション作家。ホテルのバーで行われた一夜のインタビューを、再現・構成したのが本作である。

寡黙なイメージのあった若い頃の藤圭子が、こんなにも確かな言葉を持っている人だったことにまず驚く。頑固なまでの一途さと、頂点からの景色を見てしまった人だけが持つ、悟りのような知性。率直すぎるほど率直な語りから、一人の女性としての飾らない姿が見えてくる。

この作品には地の文が一切なく、二人の会話のみで全編が成り立っている。表情も声の調子もしぐさも一切描写されていないのだ。そのため読者は、本人が発した言葉のみによって、30年以上の時を超えて藤圭子と出会い直すことになる。いまこの時期に本書が世に出た意味は、ここにあるのではないかと思う。

本書は著者の判断で長く発表を見合わせられてきたという。封印してきた事情と、自死を経たいまになって刊行を決断した理由は後記に詳しい。〈「精神を病み、永年奇矯な行動を繰り返したあげく投身自殺をした女性」という一行で片付けることのできない、輝くような精神の持ち主が存在していた〉と著者は書いている。20代の彼女が語った言葉にはまさに、ひとつの時代を生ききった女性の輝きが定着されている。

藤圭子の歌とともに同時代を生きた人々は、一冊の本が、彼女を死後のスキャンダルから救い出してくれたことに安堵するに違いない。私もそのうちの一人である。

いささか感傷的なタイトルだと著者自身が書いているが、読み終えるとあらためて、その美しさが胸にしみる。本をそっと閉じて、強く輝いて消えた孤独な魂に祈りたくなる。

(ノンフィクション作家 梯久美子)

[日本経済新聞朝刊2013年11月10日付]

流星ひとつ

著者:沢木 耕太郎
出版:新潮社
価格:1,575円(税込み)

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