春秋

欧州の一隅に潜んでいた過激派組織「イスラム国」(IS)メンバーらの姿があぶり出され、「戦争」と大統領が断じたフランスや、「航空機へのテロ犯は必ず処罰する」と強調したロシアによるIS拠点への攻撃が続く。パリ同時テロの余波は当分静まりそうもない。

▼平和な日常を楽しむ市民を無差別に狙った蛮行に、威信を懸け、戦闘態勢で臨む各国。力と力の応酬の行き着く先は見通せない。劣勢となりつつあるISが存在誇示と、リクルートのため新たな攻撃に出るとの見方もあるという。暗たんたる思いが湧いてくる。この上、いくら犠牲が重なり、何度、心乱されれば済むのか。

▼キリスト教の旧教と新教が凄惨な争いを続けた16世紀のフランス。文学者の渡辺一夫は双方の融和を図ったり、圧迫に屈せず学問に徹したりした人々の評伝を描く中で、「寛容の精神」に着目した。歴史の教訓から「寛容は不寛容に対し不寛容であってはならぬ」ことが原則だと記す。では、秩序を乱す人にどう対するか。

▼渡辺は書く。人間的な範囲で制裁の権利はある。しかし、自ら恩恵を受けるその秩序が永劫(えいごう)に正しいかを考え、欠陥を人一倍感じ、犠牲になって苦しむ人々がいることをわきまえよ。ありがたい秩序なればこそ、その改善と進展を志せ――。21世紀の国際政治は冷厳に進むが、彼が掲げた灯は心のどこかに置いておきたい。

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