コウノトリ、豊かさ象徴 兵庫県豊岡市長 中貝宗治氏(60)(関西の羅針盤)

第10章 「これから」を語る(9)

――コウノトリの復活を契機に、環境と経済を共鳴させる「環境経済戦略」を打ち出し今年で10年です。

「戦略の3本柱は経済の裏打ちがあって環境対策が続けられるという持続可能性、環境資源を生かした経済的自立、そして暮らしを誇りあるものにすること。浸透してきたと思います」

「コウノトリがすめる環境にしようと始めた無農薬・減農薬のコウノトリ育む農法は300ヘクタール弱に広がりました。工業では利益を追求しながら環境も改善される環境経済事業の認定が45件に上り、市の製造品出荷額等の11%を占めています。復活の取り組みは世界中で評価され、コウノトリが舞う環境の下での暮らしは豊かだという意識が市民に広がりました」

「文化面では昨年、県施設を改修して城崎国際アートセンターを開き、国内外の劇団などが宿泊費と光熱費は無料で長期滞在できるようにしました。世界的に著名なアーティストがここで練習して初演した後、世界公演へと旅立つ。東京を介さず豊岡は世界と直接結ばれているのです」

「関係人口」増やす

 ――東京一極集中が続いています。

「都市の豊かさと地方の貧しさという抜きがたいイメージがあります。しかし総務省の調査では20~40代を中心に地方移住を望む人が増えている。そういう人たちは都市の暮らしの空虚さを見ています。もし政府が地方創生で、都市的な豊かさを地方にもと考えたら失敗するでしょう」

「地方の豊かさは人と人とのつながりや伝統や歴史だと思います。豊岡は自然の豊かさがある。AKB48もサザンオールスターズも来ないけれど、世界から最先端のアーティストが来る。08年に再オープンした芝居小屋の出石永楽館では片岡愛之助さんが座頭となって歌舞伎も演じられる」

「市の人口は5年間で4000人ずつ減っていますが、変化の予感はあります。最近2年間で20~30代の8人が豊岡に戻り農業に就きました。地場産業のかばんでも昨年開校した専門学校に今年は北海道から九州まで9人が入りました。頻繁に豊岡を訪れて定住にも結びつく『関係人口』を増やしていきたい」

豊岡の顔守る

――関西としては何を打ち出すべきでしょう。

「多様な文化です。東京とは違う価値観に立脚した暮らしがあると、関西全体でアピールしたほうがいい。何もない地域などありません。気候風土に合わせて農作物が違い、料理も服の染め方も器も違います。その地の自然を体現しているのが伝統文化です。豊岡は豊岡の顔を断固として守っていきます」(おわり)

〈この地への思い〉世界との接点意識 豊岡に生まれ兵庫県庁、県議を経て2001年から市長を務める。絶滅したコウノトリの復活を、農家や企業など市民ぐるみで支えるのが豊岡の強み。「自分たちを元気にするには足元を見るしかない」と語る。
 一方で常に世界の中の豊岡を意識し「小さな世界都市」を目指す。城崎温泉など市のPRでも東京や京都と肩を並べロンドンの旅行博に出展する。欧州や韓国から環境関係の講演に招かれることも多い。市の「観光課」を「大交流課」に変えたのも内外の様々な人々と豊岡を結びたいという強い思いからだ。(宮内禎一)
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