国内6メーカー担当者が実物を見て語った「iPhoneの衝撃と本音」

ジャーナリスト 石川 温

iPhoneをハワイで購入してから3週間。現地では契約できずに「7万円の電子文鎮」という高価な土産物になってしまったが、その後、四苦八苦して何とかAT&Tと正式に契約することができた。2週間ほど電話以外の機能をあれこれ試しているが、やはりタッチパッドを使った操作性は、とても快適だ。

iPhoneのパッケージ

普段、日本メーカーの端末に慣れ親しんでいるせいか、iPhoneの操作性はかなり斬新に感じる。果たして、携帯電話端末を開発している国内メーカーの人たちは、iPhoneの登場にどんな感想を持っているのか。また、iPhoneの独特の操作性を、どのように評価するのだろうか。

そこで、この2週間に国内6メーカーの端末開発者に契約したばかりのiPhoneを触ってもらい感想を聞いた。メーカー担当者の本音を集めることで、iPhoneの本当の実力が見えてきた。

初めてでも違和感を抱かせない全く新しい操作性

まず本体を見る前に、国内メーカー関係者が驚くのが、iPhoneのパッケージだ。高級時計や貴金属を思わせる高級感のある箱を前にして、A社プロモーション担当は「アップルらしい」とため息をついた。国内ではほとんどのキャリアが、コーポレートカラーを彩った共通デザインの段ボール箱を採用しているだけに、メーカーとしては、箱に対してすらうらやましいと感じるようだ(イー・モバイルだけはデザイン性の高い箱を採用)。

iPhoneは、3.5インチの大型液晶を搭載し、タッチパッドで直感的に操作できるのが特徴だ。画面のスクロールや反応も俊敏で、パソコンと比べても比較にならないほど、サクサクと操作することができる。写真のサムネイルを何百枚も表示させても、思いのままストレスを感じることなく操作できる。

「この操作性は素直に感激する」と語るのは、B社マーケティング担当。「サムスン電子製のARMチップが使われているようだが、ここまで快適に動くとは正直、脱帽する。ユーザーが惹かれるのは理解できる」(C社端末戦略担当)と、iPhoneの俊敏性にはメーカー関係者の誰もが舌を巻いていた。

通常の操作で使うボタンは1つ

iPhoneには、通常の操作で使うボタンは1つしかない。メールを使っている際、他の機能に移りたいと思ったら、本体下部のボタンを押してホーム画面に戻り、使いたい機能に移動するという操作体系となっている。あとは、直感的にタッチパッドを触って操作していく。

日本のケータイは、テンキーを使い文字を入力する。操作をするにはサブメニューを呼び出して、使いたい機能をリストから選んでいくという流れになる。

国内メーカーには、テンキーのほうが使い勝手が良さそうだという固定観念がある。しかもユーザーの多くは、機種変更をして、ちょっとでもクリアや濁点ボタンの位置が違うだけで、「前の機種のほうが使いやすかった」と感じてしまう。メーカーもユーザーも、テンキーの操作性に慣れきってしまっているのだ。

そのため、2番手以下のメーカーは、トップシェアメーカーが採用するテンキーの操作性に近づけて、ユーザーを奪いとろうと努力する。結果、どのメーカーも似たような操作性になってしまう。

しかし、iPhoneの場合、タッチパネルによる全く違った操作体系を取り入れた。そのため、多くの人が違和感を抱くことなく使うことができる。A社プロモーション担当は、iPhoneを操作していくうちに「我々はテンキーという固定概念に縛られているのかも知れない」と落胆した。

「そもそも、ボタンをほとんど搭載しないという開発思想が吹っ切れている。だからこそ、実現できた操作性だと思う。常識から考えると、ボタンを搭載した方が、操作をしていくうえで断然に速い。しかし、タッチパネルにして、さらに操作に『エンターテインメント性』を入れている。ここがアップルのうまいところ」(D社端末企画担当)だという。

指をを開くと拡大表示。直感的に操作できる

C社端末戦略担当は、「実際使い込んでいくと、ズームインなどの描画速度は遅かったりする。これは、国内メーカーの立場からすると、とても許せる範囲ではない。しかし、iPhoneのタッチパネルによるUI(ユーザー・インターフェース)にはエンターテインメント性があるため、描画速度が遅くてもユーザーに遅いと感じさせないようだますことができる。こんな演出を先にやられると、国内メーカーは真似はできなくなってしまう」と語る。

メーカー関係者が語るエンターテインメント性とは、地図や画像の表示時に、人差し指と親指をくっつけ、画面上に置き、指を開くと、それに併せて画像も拡大表示されることを指している。また、写真のサムネイル表示も、写真を水槽に浮かべて、水面を滑らしたときのような、自然界の動きに近い描画をする。

iPhoneはUIに、このようなエンターテインメント性を入れ込んだことで、ユーザーに「快適」という感覚を植え付けている。これは、iMacなどに搭載されている基本ソフト「Mac OS X」にも共通している姿勢なのだろう。

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学ぶべき点が多い「割り切りの良さ」

スピーカーは本体下部にある

メーカー関係者の多くがさらに感心したのが、iPhoneの「割り切りの良さ」だ。iPodとしての操作性に関しては高い評価が集まるものの、スピーカーの音質に関しては、厳しい声が聞かれた。A社プロモーション担当は、「スピーカーは貧弱だと思う。おそらくヘッドフォンを使うのが一般的だと考えており、スピーカーは手を抜いたのだろう。力を入れるところと、そうでないところの差が絶妙という。

また、200万画素カメラに関しても、D社端末企画担当は「画質は、かなり悪い」と手厳しい。日本メーカー関係者から見ると、スピーカーやカメラといったデバイスに関しては、あまりコストをかけていないように感じたようだ。

iPhoneには、説明書と呼ばれるような冊子はほとんど入っていない。機能を紹介した数ページの冊子と注意書き程度のものしか同梱されていない。操作に関しては、アップルのサイトにアップされている20分程度の操作説明動画を視聴して学ぶしかない。AT&Tと契約するには、iTunesが動くパソコンが必要。当然、自宅にインターネット環境がなくてはならない。iPhoneは、パソコンユーザーを対象とした、ITリテラシーの高いユーザー向けのケータイといえる。ある程度の知識があるユーザーしか使わないからこそ、説明書を同梱しないという割り切ったこともできるのであろう。

ツメで操作しようとすると全く反応しない

日本メーカー関係者らしい視点としては、「ツメで操作ができないのでは日本の女性ユーザーには受け入れられない」(E社製品企画担当)というの指摘があった。iPhoneのタッチパネルは当然のことながら、指で触って操作する。しかし、ツメを立ててしまうと、全く反応しなくなってしまう。シャープの「W-ZERO3シリーズ」などは、タッチペンを使って操作するため、画面に圧力が加わることで反応するようにできている。当然、ツメを立てても操作が可能だ。「女性はツメが長いユーザーが多いため、ツメの先でボタンを押せる電話機でないと買ってくれない」(E社製品企画担当)。

ほかにも、「マナーモードにすると、カメラのシャッター音も消えてしまう。盗撮防止としてシャッター音を消せないようにしている日本市場ではあり得ない。また、ムービー使用時のコントラスト調整ができなかったり、フォトアルバム表示時の操作性がいまいち。細かいところまで見ると『甘い』と感じる部分がある」(C社端末戦略担当)という。

日本で大ヒットを狙うなら、今後はこのあたりを改良した方がいいかもしれませんよ、スティーブ・ジョブズCEO!

日本メーカーにiPhoneを超えるものはつくれるのか?

手厳しい評価を受けたカメラ機能

日本のケータイは、ワンセグやおサイフケータイ、音楽機能やフルブラウザーといったように機能がてんこ盛りだ。一方のiPhoneは、iPodという音楽機能に加えて、YouTubeやGoogleマップなどのインターネットコンテンツに対応している程度に過ぎない。機能でいったら日本のケータイが圧勝のはず。しかし、国内メーカー関係者のほとんどは「悔しいけれど、iPhoneはすばらしい」と白旗をあげた。果たして、何が違うというのか。

「例えて言うなら、日本のケータイはリフォームを繰り返した、築何十年の注文住宅なんです。どんなに、内装や外装は変えられても、基本構造の梁や柱は変えられない。一方のiPhoneはオール電化でバリアフリーが完璧のデザイン住宅。どちらが住み心地がいいのかなんて、一目瞭然です」(B社マーケティング担当)。

日本のケータイは、確かに高機能ではあるが、「もしもしハイハイ」の音声電話にメール機能を載せ、インターネットに接続できるようにして、音楽を取り込み、テレビや非接触ICを後から次々に載せてきた。まさにリフォームを繰り返してきた住宅だ。iPhoneは、いまユーザーに何が求められているかを充分に理解したうえで、設計図が引かれ、快適性にとことんこだわってつくられている。

今回、匿名を条件にiPhoneへの様々な本音を聞き取っていったが、特に印象的だったのが、国内メーカー関係者の多くが、iPhoneから「アップルの物作りに対するこだわり」を感じ取っていたことだ。以下、意見を列挙すると、 

「iPhone担当者は、楽しみながら製品をつくっていたんだな、と思う」(E社製品企画担当)。

「iPhoneには、物作りに対する強い信念を感じる。タッチパッドや機能などを表面的に真似しても、iPhoneを超えるものはできない。開発者の信念がこの製品を作り上げたような気がする」(F社技術担当幹部)。

「チームワークがしっかりしている。一つのものに集中しているから、製品化を実現できたと思う。メーカーとしてのやり方を貫いている点は見習いたい」(C社端末戦略担当)

「我々も対抗できる商品をつくりたい。しかし、やるからには徹底しなくてはいけない」(D社製品企画担当)。

といった様子。国内メーカー関係者のほとんどが、アップルの開発体制を「うらやましい」と思ったとともに、悔しさを感じていた。iPhoneの登場によって、国内メーカーが奮起してくれることはとても喜ばしいことだ。

これまで国内メーカーは、年3回の商戦期のために、キャリアの意向を聞き、他メーカーの動向を横目で見て、日々疲弊しながら製品開発を行ってきた。機能競争だけでは差別化しにくくなっている今、国内メーカーに求められているのは、メーカーとしてのメッセージ性を持った製品を、じっくりと腰を据えて開発できる環境なのだろう。

iPhoneの日本上陸がいつになるのかは定かではないが、そのころには、国内メーカーからも、ユーザーの心をときめかせる端末が登場することに期待したい。

[IT PLUS 2007年7月19日掲載]

〈筆者プロフィル〉 石川温(いしかわ・つつむ) 月刊誌「日経Trendy」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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