「かけらのかたち」 深沢潮氏 あとがきのあと 2月23日 大学時代のテニスサークルのよしみで鍋パーティーに同窓生やパートナーが集まった。楽しくなるはずの場に不信や嫉妬が渦巻く。年の差婚の夫婦、親子間の不和など家族の内情は互いに理解しきれないからだ。それぞれの人物の視点から個人が抱える悩みを掘り下げ、連作短編にまとめた。 「細かい人間関係のすれ違いは、相性ではなく環境に左右される。人は自分の置かれている環境の中でしか想像できない」 表題作では不妊治療に通 「かけらのかたち」 深沢潮氏
「昆虫は美味い!」 内山昭一氏 あとがきのあと 2月16日 自宅から3分ほど歩けば多摩川に出る。東京都内でも水辺や雑木林に目を凝らせば、そこには美味なる食材が潜んでいるのだ。川原にしゃがみこんで石を拾い上げてみると、いた。 長野ではザザムシと呼ばれて古くから食用にされている水生生物の幼虫だ。生きがいい。「つくだ煮が高級珍味として知られるが、ゆでて塩を付けるだけでもさっぱりとしておいしい。味は白身魚に似ていて、川藻の風味もする」 著作や定期的な試食会を通じ 「昆虫は美味い!」 内山昭一氏
「DRY」 原田ひ香氏 あとがきのあと 2月9日 確執を抱えた祖母・母・主人公の藍の3世代と、藍の幼なじみであり、祖父の介護を続ける隣人の美代子。袋小路の2軒、4人の女たちの物語には、担い手のない介護、足りない年金、女性の貧困という切迫した問題が凝縮している。 「今の日本社会を書くなら、これらの問題は避けて通れない」と言う。「美代子は若いときから介護を続けて40代になり、今さら外で仕事を見つけるのは難しい。(小説内で彼女に起こる)転落は大げさに 「DRY」 原田ひ香氏
「段ボールはたからもの」 島津冬樹氏 あとがきのあと 2月2日 世界を歩き、段ボールを集める自称「段ボールピッカー」。それを材料に財布や小銭入れなどを制作している。多くがリサイクルされる優良資源だが、「元の製品より少しいいものが作れれば、世界は良くなると信じている」と話す。近年、話題を集めるアップサイクルの考え方だ。 美大の2年生だった10年前、財布が壊れた。買い替えるお金がなく、家にあった段ボールで代用品を作った。「1カ月くらいもてばいいと思っていたが、1 「段ボールはたからもの」 島津冬樹氏
あとがきのあと「おとぎカンパニー」田丸雅智氏 あとがきのあと 1月26日 ショートショートの旗手として注目を集める若手作家の新作だ。「白雪姫」や「赤ずきん」など誰もが知る童話を、大胆にアレンジした14編を収録する。 「見えないラケット(裸の王様)」では、テニス部のまじめすぎる熱血キャプテンに不満を募らせる1年生たちが、一泡ふかせようと「正直な人にしか見えないラケット」を贈る。そこから起きる騒動をユーモラスに描いている。 「アイデアと、それを生かした印象的な結末があると あとがきのあと「おとぎカンパニー」田丸雅智氏
「手帳と日本人」 舘神龍彦氏 あとがきのあと 1月19日 「『手帳は昭和の遺物』などと言う人がいますが、そういう人の頭が昭和なんだと思います。今の手帳は進化しているし、予定管理にとどまらない多様な使い方ができる。パソコンとスマートフォンに続く『第3のスクリーン』として大いに活用すればいい」 手帳評論家としてノウハウ本を多くものしてきたが、本書は明治から現代に至る手帳の歴史を追う内容。旧日本軍の「軍隊手牒(てちょう)」から企業が社員に配布した「年玉(ねん 「手帳と日本人」 舘神龍彦氏
「ダンシング・マザー」 内田春菊氏 あとがきのあと 1月12日 「16歳で家出をしたとき、母から『死んでると思って山に探しに行ったのよ』と言われたことがあった。ものすごい後になって『母は私に死んでほしかったんだ』と気付いてショックを受けた。この本は最初『母が許せない』という思いがにじみすぎていて、担当の編集者に入念に怒りを取り除いてもらったくらい」 養父からの性暴力とそれを傍観する母から逃れて家出するまでを描いた自伝的長編小説『ファザーファッカー』から25年 「ダンシング・マザー」 内田春菊氏
「熱帯」 森見登美彦氏 あとがきのあと 1月5日 「小説って何だろうという疑問に真正面から答えようとしたら、やはり普通の小説ではなくなった。こうした『怪作』にならざるをえませんでした」。一冊の謎の本をめぐって現実と幻想が行き交う壮大な冒険譚(たん)は、人気作家の長い試行錯誤の末に生まれた。 主役は「佐山尚一著『熱帯』」という小説かもしれない。私小説風の冒頭に登場する奈良在住の小説家をはじめ、本を最後まで読み通せた者はいない。謎を解き明かそうとす 「熱帯」 森見登美彦氏
「照明家(あかりや)人生」 吉井澄雄氏 あとがきのあと 12月22日 舞台照明の先駆者が回顧談をまとめ終えて、一言。「よくまあ、これだけやったなあ」。1954年から始めて、作品数は1500を超える。演劇、オペラ、コンサート、何でもやったから、戦後の舞台芸術を俯(ふ)瞰(かん)する一書となった。 照明家と書いて「あかりや」と読ませるのは、幕内の言い方による。いささかの自嘲とその反面の矜恃(きょうじ)が題名にのぞく。大道具の寸法を勝手に変えてしまう幕内の因習的雰囲気に 「照明家(あかりや)人生」 吉井澄雄氏
「ヌルラン」 辛酸なめ子氏 あとがきのあと 12月15日 かつてはキラキラ女子だったブロガーのレミは、洗練されたファッションに身を包み、最新のアイテムをインスタグラムで発信するモデルをうらやましく思う。だけど、モデルは自分を演じるのに疲れていくようだ。レミの視点を通してSNS社会に生きる現代人のむなしさを描いた。 小説は3作目だ。「炎上しがちな世の中で、自分の言いたいことを他人に語らせることができる」。無益な企画に挑戦するユーチューバーや、陰謀論をやた 「ヌルラン」 辛酸なめ子氏