読まれなかった小説 シネマ万華鏡 11月29日 前作『雪の轍(わだち)』でカンヌ映画祭最高賞を獲得したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の3時間9分の大作。人生とは何か、世界はどうなっているのか、という根源的な問いに真正面からたち向かい、最後までどこに導かれるか分からない緊張感をたたえている。 主人公のシナンは、大学を卒業して、トロイの遺跡近くの故郷に戻ってくる。父は小学校の教師だが、競馬狂いがやまず、家は金欠にあえぐ。シナンは小説を書きあ 読まれなかった小説
決算!忠臣蔵 シネマ万華鏡 11月22日 目玉の松ちゃんの時代から、忠臣蔵映画は数多く作られてきた。中でも溝口健二監督「元禄忠臣蔵」(1941~42年)は討ち入り場面がないことで知られる。そしてまた一つ、討ち入りのない忠臣蔵が生まれた。 かけそばの大写しから始まる。江戸時代のそば1杯は16文。今は480円とすると1文は30円。約800両とされる赤穂浪士の軍資金は9500万円。これがどう工面され、どう使われたか。大石内蔵助が残した「預置候 決算!忠臣蔵
アイリッシュマン シネマ万華鏡 11月15日 マーティン・スコセッシ監督の新作は、マフィアの大幹部ラッセル・バッファリーノに使われ、老いて老人ホームにいるフランク・シーランの回想に基づく、チャールズ・ブラントのノンフィクションが原作。ネットフリックスが製作して、スコセッシとは今回が22年ぶり9回目のコンビになるロバート・デニーロをはじめ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルなどがマフィアの世界を彩る。 1975年、謎の失踪とされた全米トラック アイリッシュマン
ターミネーター:ニュー・フェイト シネマ万華鏡 11月8日 圧巻のパワーを放つ低予算のSFサスペンス映画『ターミネーター』(1984年)で世に出た監督がジェームズ・キャメロンだ。7年後、彼は殺人機械ターミネーターのキャラクターを大幅に変更、未来の救世主を護(まも)るT-800型に進化させて『ターミネーター2』を生み、やがて『タイタニック』『アバター』の成功で大ヒット・メーカーになった。 キャメロンはアーノルド・シュワルツェネッガーの筋肉を鋼鉄に見立て、未 ターミネーター:ニュー・フェイト
象は静かに座っている シネマ万華鏡 11月1日 混濁した社会の現実を清冽(せいれつ)な映像で描き上げ、4時間近い長尺にもかかわらず張り詰めた空気がみなぎる傑作だ。中国の地方都市を舞台に、事情を抱えた4人の男女の交錯する運命を、1日の出来事としてリアルに描き出す。中国のフー・ボー監督のデビュー作であり、また遺作となった。 かつて炭鉱業で栄えたが今や昔日の面影もない田舎町。ブー少年(ポン・ユーチャン)は、学校で友人に絡んできた不良少年を階段から突 象は静かに座っている
ジェミニマン シネマ万華鏡 10月25日 51歳と23歳のウィル・スミスが息詰まる戦いを繰り広げる近未来アクション。『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のアン・リーが監督。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどの大ヒット製作者、ジェリー・ブラッカイマーと組んで新たな映像作りに挑戦した。 政府に雇われる天才スナイパーのヘンリー(ウィル・スミス)は、50歳を過ぎてそろそろ引退を考えているが、新た ジェミニマン
ボーダー 二つの世界 シネマ万華鏡 アートレビュー 10月18日 淡々と、見たこともない世界がひらけていく。主人公の存在それ自体が最大のミステリー。 スウェーデンの海のボーダー、港の税関で検査官をつとめる女性ティーナ(エヴァ・メランデル)。特殊な嗅覚で不正な持ちこみを見破る。アルコールなど序の口で、児童虐待ポルノを記録したメモリー・カードも「罪悪感のにおい」を感じて発見する。百発百中。 ティーナは独特な風貌をしている。人類以前の原人の復原標本を連想させ、映画「 ボーダー 二つの世界
真実 シネマ万華鏡 10月11日 『万引き家族』でカンヌ映画祭最高賞を受賞した是枝裕和監督の最新作。カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュというフランスの2大女優を使い、全篇(ぜんぺん)パリでロケ撮影した本年の話題作である。 大女優ファビエンヌ(ドヌーヴ)はいまも現役で、自伝『真実』を出版した。 その出版祝いのため、アメリカで脚本家をしている娘のリュミール(ビノシュ)が、テレビ俳優の夫(イーサン・ホーク)とともに里帰りする 真実
ジョーカー シネマ万華鏡 10月4日 ジョーカーはDCコミックス「バットマン」に登場する悪役。かつて大物俳優ジャック・ニコルソンが演じ、この役でアカデミー賞助演賞を受賞したヒース・レジャーの恐怖がしたたる不気味さが話題を呼ぶなどしてきたが、今回はジョーカー誕生の過程を描く闇黒(あんこく)ヒーロー映画になった。 酔っ払い男たちの大騒ぎを描く『ハングオーバー!』シリーズ3部作のトッド・フィリップスが監督。1作目ではワケもなく虎を登場させ ジョーカー
惡の華 シネマ万華鏡 9月27日 井口昇は、自主映画「クルシメさん」(1997年)で注目されて以後、「恋する幼虫」(2003年)、「猫目小僧」(06年)等、鬱屈した感情がシュールに花ひらく、独創的なエンターテインメントの世界を切りひらいてきた。今回は、これまでで最もメジャーな規模の作品で、彼独自の世界を実現させた。 「クルシメさん」に「魂を救われた」と言うまんが家、押見修造の作品が原作で、原作と映画作家の世界が通じあっている。 惡の華