三年間の空白 小説家・松浦寿輝 3月22日 新型コロナウイルスの感染対策で、マスク着用が基本的に個人の判断に委ねられることになった。五月八日以降、コロナの位置付けを季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行させる方針も決定している。 これでコロナ禍がついに終焉(しゅうえん)を迎えたと、考えてしまっていいのかどうか。政府の判断に疑義を呈する声が上がっており、わたし自身も首をかしげないでもない。個人的には外出時のマスク着用は当分続けるつもりでい 三年間の空白 小説家・松浦寿輝
振り飛車の現在地 将棋棋士・谷合広紀 囲碁・将棋 3月22日 将棋の戦型は「居飛車」と「振り飛車」の2つに大別できる。居飛車とは飛車を初期位置から動かさずに、ずいずいと飛車先の歩を突いていく戦術を指す。一方の振り飛車は、飛車を横に移動して別の筋からの攻めを軸にする戦術だ。 同じ将棋といえど居飛車と振り飛車では戦うスタイルが少し異なるため、どちらを好むかは人それぞれだ。王道と言われるのは居飛車だが、今までに振り飛車党の名人もいた。居飛車と振り飛車それぞれ良さ 振り飛車の現在地 将棋棋士・谷合広紀
人間が持つ無限の可能性 サントリーHD社長・新浪剛史 3月20日 企業経営という仕事の最大の喜びのひとつは、人間が持つ無限の可能性に触れることだ。コンビニエンスストアの経営を立て直す過程で、活躍の場がないとされた社員たちがいた。一考し、彼らには「お客様」になってもらうことにした。覆面で、つまり社員と明かさずにお客様のように店舗を訪れ、運営を審査してもらうという仕事だった。 彼らは懸命に役割を果たし、店舗運営を改善するための多くの気づきをもたらしてくれた。「いら 人間が持つ無限の可能性 サントリーHD社長・新浪剛史
合わせる 小説家・高瀬隼子 3月20日 置かれた場所で、求められている態度や人格を読み解いて合わせることができる人は、大勢いるだろう。好き好んでそうするというよりは、できてしまうからやってしまうのだ。 わたしも、郷に入っては郷に従うのが得意である。良く言えば柔軟で臨機応変、率直に言えば確固たる自分がなく、八方美人なので、へらへら笑って周りに合わせられる。それが苦手ではない。嫌いではあるが。好き嫌いにかかわらず、こなすことはできる。 あ 合わせる 小説家・高瀬隼子
骨になっても 作家・朝吹真理子 3月19日 はじめて生きもののお弔いをしたのは、たけのこだった。近くの竹林に、たけのこが生えていて、どんどん大きくなるのがおもしろいので、たけちゃんと呼んで可愛(かわい)がっていた。名前をつけると、たった一つだけのたけのこだという親密さがわいてくる。たけちゃんは背が伸びるにつれどれなのかいまひとつわからなくなっていたが、若そうな竹をみてはさすった。 ある日家に帰ると小さなトラックが止まっていて、植木屋さんが 骨になっても 作家・朝吹真理子
蕎麦自慢 俳優・長塚京三 3月18日 蕎麦(そば)自慢はほぼ全国規模だ。そもそも麺が好きな私は、あちこち旅するうち、名店と言われるお蕎麦屋さんにも、相当足を運んでいるはずである。 だからと言って「三大蕎麦を挙げてください」などと言われると大いに戸惑う。さほど蕎麦通じゃないから、と逃げ腰になる。麺は好きだが、と頼りない。 実際、蕎麦屋の暖簾(のれん)をくぐると、私は迂闊(うかつ)にも、おかめ饂飩(うどん)とか、本流を外した注文をして叱 蕎麦自慢 俳優・長塚京三
推しの氾濫 批評家・北村匡平 3月18日 ここ5年ほど「推し」がブームとなり乱用されている感さえある。大学でレポートを課すと、無意識なのか自分の推しだけ「さん」付けし、他の人物は呼び捨てにして「推し」との差別化をはかる学生もいるほどだ。僕ですらアイドルの講義では学生から「先生がももクロ推しであることが十分伝わってきた」とのコメントを拝受、Vチューバーを扱う授業では「先生の表情を見ていると誰が推しかわかるようになった。ミライアカリは好きな 推しの氾濫 批評家・北村匡平
聞こえぬ叫びを聞く 文筆家・寺尾紗穂 3月17日 去年から知床のS町と道東のT町の2カ所でライブのお招きを頂くようになり、今年もまた3月の北海道へ向かった。不思議なご縁があり、S町のライブではT町の中学校のS校長先生がみごとなギター弾き語りを2曲披露してくださった。さらにS町から次のT町まで先生に送っていただくことになり、車中いろいろな話をした。 「そもそも学校があるから不登校もいじめも二次障害も起きるんです」と校長らしからぬ発言をおそれないS 聞こえぬ叫びを聞く 文筆家・寺尾紗穂
LGBTQは攻めてこない 漫画家・竹宮惠子 3月17日 変革には旗を振る変革と、浸透する変革があると思う。一つは大きな歴史的革命のように、旗を振り上段に構えて、引き下がらない覚悟で進める変革。もう一つはさりげない小さな変化が積み重なり、そのひとつひとつはそれほど意思的でないのに、いつの間にかその変化が当たり前になっているような変革。ひとりがささやかに発言したことが、いつしか大きな波になって変革の起爆となることをバタフライ・エフェクトと呼ぶのだそうだ。 LGBTQは攻めてこない 漫画家・竹宮惠子
中2病 歌人・小佐野彈 3月16日 先日、テレビで俵万智さんの密着ドキュメントが放送された。これまで様々な場で書いて来たけれど、僕が短歌を始めたのは、中学2年の時、俵さんの第3歌集「チョコレート革命」に出会ったのがきっかけだ。僕を短歌の道に導いてくれて、今も作歌において常に影響を与え続けてくれている。俵さんの短歌なら、たぶん100首以上諳(そら)んじることができる。 中学2年生といえば、文字通り「中2病」のまっさかりである。異性を 中2病 歌人・小佐野彈