日経の書評 2023年1月「ジョーン・ロビンソンとケインズ」「絵画の素」… 日経の書評 2月3日更新 経済書をはじめ歴史や科学、小説まで。日本経済新聞の土曜日付朝刊「読書」面では、多彩なジャンルの書評を掲載しています。「 日経の書評 2023年1月「ジョーン・ロビンソンとケインズ」「絵画の素」…
語らう3人、浮かぶ歴史 陣野俊史氏が選ぶ一冊 2月2日 物語は1941年11月8日土曜日に始まる。香港にあるペニンシュラ・ホテルに集まる3人の人物。谷尾悠介。ブレント・リーランド。黄海栄。職業は様々だが、日本と英国と香港の政府や諜報機関(ちょうほうきかん)とつながりのある人物たち。広東料理を堪能し、うまい酒に酔う。だが社会情勢は急変する。この1カ月後、日本は真珠湾を奇襲攻撃し、太平洋戦争が始まる。同じ日に、日本は香港攻略作戦を開始する。 小説は、香港 語らう3人、浮かぶ歴史 陣野俊史氏が選ぶ一冊
極北の地、油田利権と事件 野崎六助氏が選ぶ一冊 2月2日 極北のミステリである。――地勢図の意味で。舞台はノルウェーの北端の町。油田の開発を機に事件が続発してくる。 立ち向かうのは、若いトナカイ警官の男女。トナカイ警官とは、放牧されたトナカイをめぐるトラブル全般を扱う公務員。北欧三国で任務にあたる。本作はシリーズの第2作。前作は太陽が40日間出ない極夜。今回は1日の大半が日照時間となる春から初夏の季節だ。極夜から白夜へ。相棒刑事の1人は、南部出身者なの 極北の地、油田利権と事件 野崎六助氏が選ぶ一冊
経済政策巡る対立と苦悩 入山章栄氏が選ぶ一冊 2月2日 アベノミクスの背景を描く、著者によるシリーズの第3弾。安倍政権の後半期から現在の岸田政権までの財政金融政策をめぐる政府、自民党、日銀、財務省官僚の動向と対立を鮮明に描く。本書を読むと、現在のマクロ経済政策がいかに「正解がない」ものかがわかる。その中で、各々(おのおの)のプレーヤーが信じる政策を是として対立し、反発し、時に政争の道具としてマクロ経済政策が決まっていく。 本書の大きな柱は、いわゆる「 経済政策巡る対立と苦悩 入山章栄氏が選ぶ一冊
四元康祐「詩探しの旅」孤独をのぞく目 四元康祐「詩探しの旅」 1月29日 彼は英語を喋(しゃべ)らなかったし、僕は中国語が分からない。詩祭会場へ行くバスの車中で顔を合わせても、僕らは慎み深く笑みを交わすだけだった。 一体どこから来たのだろう?どんな詩を書くのだろう?香港の民主化運動を、彼はどんな思いで見ているのか?中国本土から来たほかの詩人たちと談笑しているのを見かけたこともあるが、大抵はひとり輪の外に佇(たたず)んでいた。 あれは、夜明け前の黒々とした大地を見つめて 四元康祐「詩探しの旅」孤独をのぞく目
老い、死、植物… 落合恵子さんが年を重ねて読む4冊 カバーストーリー 1月28日 本の専門店を主宰しながら女性や子どもに寄り添ってきた、作家の落合恵子さん。70代も後半にさしかかり、老いや死などをテーマにした、年を重ねたからこそ実感できるような4冊を紹介してくれました。本紙読書面の連載「半歩遅れの読書術」のまとめ読みです。 ■庭の光景、受け継ぐ 詩人長田弘『死者の贈り物』の懐かしさ 不思議な懐かしさを覚える、死について描いた詩集がある。詩人長田弘さんの『死者の贈り物』(みすず 老い、死、植物… 落合恵子さんが年を重ねて読む4冊
銭湯イラストレーター 珍事件や癒やしの場への思い 1月28日 激務のあまり建築事務所を休職したとき、心を癒やしてくれたのが銭湯だった。浴室内部を建築の図法で緻密に描いたイラストがSNS(交流サイト)で話題になり、東京・高円寺の老舗銭湯で働かないかと誘われた。「番頭兼イラストレーター」を経て画業に専念。銭湯で遭遇した珍事件や番頭を辞めた思いをエッセー集にまとめた。 「番台に立てば振り回されてばかりだが、お客さんの感謝がすぐ伝わる。自分の仕事に誇りを取り戻すき 銭湯イラストレーター 珍事件や癒やしの場への思い
トーキョー・キル バリー・ランセット著 1月28日 紛れもなく日本の今が描かれているのに、異国情緒な気分を味わうことができる。日本で生まれ育った主人公のアメリカ人私立探偵の視点が生きているからだろう。 古美術商で私立探偵のジム・ブローディは、父親が経営していたサンフランシスコと東京の警備会社を引き継ぎ、米日を往復していた。その日、東京の警備会社を訪れたのは、96歳になる老人、三浦晃。日本有数の貿易会社の副社長職にあった男で、息子の耀司が付き添って トーキョー・キル バリー・ランセット著
世界の絶滅危惧食 ダン・サラディーノ著 1月28日 「絶滅危惧」とくれば、ほとんど自動的に「種」という言葉が思い浮かぶだろう。だが、本書の主役は「食」である。そう、絶滅の危機に瀕(ひん)しているのは、世界の食物や食文化も同じなのだ。 たとえばコムギ。コムギなんていくらでも手に入ると思うかもしれない。量だけいえば確かにそうだ。パンにパスタ、うどんにラーメンと、現代社会はコムギにあふれている。しかし他方で、多様性の面からいえば、多くの品種が危機にさら 世界の絶滅危惧食 ダン・サラディーノ著
樋口一葉赤貧日記 伊藤氏貴著 1月28日 樋口一葉について、作品の素晴らしさ以外に私が知っていたことはそう多くない。士族の家の出であったこと、貧乏だったこと、妹と吉原の裏で小間物屋をやっていたこと、24歳に結核で亡くなる前の奇跡の14カ月と呼ばれる1年あまりで傑作をなしたことなど、子供時代に読んだ簡易な伝記の知識くらいである。 その程度の印象の中で開いた本書には驚かされた。数多くの資料……日記や歌、習作、その他の証言から導かれた一葉は、 樋口一葉赤貧日記 伊藤氏貴著