賃上げの責務と権利 停滞脱却へ問われる労使の意識改革 賃上げ2023 半澤 二喜 1月31日 春の労使交渉が2月から本格的に始まる。20年以上にわたって停滞してきた日本の賃金が、持続的に上昇できるかどうかの分水嶺になる。 「内部留保があるからもっと賃上げしろという政府の主張は少し不愉快だが、十分に上がってこなかったのは事実だ。これからは賃金のベースを引き上げることで、労働生産性を高めるインセンティブにするしかないと思う」。ある大手製造業の社長は語る。 生産性が低いから賃金を上げられない、 賃上げの責務と権利 停滞脱却へ問われる労使の意識改革
偽情報飛び交う台湾選挙戦 中国がもくろむ分断の流れ 1月24日 2022年11月の台湾統一地方選。それに先立つ8月に米国のペロシ下院議長が訪台し、台湾をめぐる米中の緊張も高まっていたことから、選挙の行方が注目された。 選挙3日前に筆者も台北に入った。日本の選挙とやや違うのは、候補者の街宣車だ。台湾では何台もの車やバイクが縦列しながら街中を走り抜けていく。ある候補者は屋根のない小型四輪駆動車で立ち上がって手を振りながら支持を訴えていた。 今回の選挙で最も注目を 偽情報飛び交う台湾選挙戦 中国がもくろむ分断の流れ
プーチン氏は取引相手か 募る焦り、瀬戸際の求心力 坂井 光 ウクライナ侵攻 プーチン氏動向・解説 編集委員 1月17日 ロシア第2の都市サンクトペテルブルクから英国の大学に留学中のKさんは年末年始休暇を利用して一時帰国した。ロシア軍がウクライナに侵攻して以降初めてとなる故郷は「西欧への窓」という別称とはかけ離れつつあった。 西側ブランドの店は閉鎖され、欧州からの観光客は消えた。そして何より、人々は内向きとなり、生活に戦争の影が色濃く差していた。プーチン大統領は侵攻を「特別軍事作戦」と称し、「戦争」と呼んでいない。 プーチン氏は取引相手か 募る焦り、瀬戸際の求心力
外交も「抜本的強化」に動く年 政権基盤固め指導力を G7広島サミット 池内 新太郎 岸田政権 Think! 編集委員 1月10日 日本外交にとって真価が問われる年が明けた。主要7カ国(G7)の議長国となり、国連安全保障理事会の非常任理事国にも就任した。岸田文雄首相はさっそくG7メンバー国を歴訪し、リーダーシップ発揮に意欲を示す。 ロシアのウクライナ侵攻や米中対立で緊迫した昨年、G7は結束を保ち、ウクライナ支援と対ロ制裁、台湾への威圧を強める中国へのけん制などで機動的に対処した。 今年はその役回りを日本が主導する番になる。5 外交も「抜本的強化」に動く年 政権基盤固め指導力を
「新しい資本」が問う投資の知見 生物多様性に目配りを 小平 龍四郎 編集委員 1月3日 岸田文雄首相の「新しい資本主義」はくり返し聞かされて、失礼ながら鮮度が落ちてきた感もある。しかし「新しい資本」の議論は、2023年から世界的に本格化する。日本の企業と金融関係者も積極的に関わり、専門性を磨く必要がある。 22年12月中旬の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)にあわせ、世界の投資家が注目する発表があった。ESG(環境・社会・企業統治)投資のための情報開示基準をつくる国際サ 「新しい資本」が問う投資の知見 生物多様性に目配りを
自縄自縛のマイナ保険証対応 診療報酬加算にゆがみ 柳瀬 和央 編集委員 12月27日 マイナンバー保険証の実装に向けた政府の推進策が定まらない。診療報酬による誘導策は猫の目のようにクルクルと変わり、医療機関にマイナ保険証対応を義務付ける措置には猶予期間が設定された。なぜ二転三転するのか。 12月23日、厚生労働省はマイナ保険証の普及促進を目的とする診療報酬の加算措置を2023年4月に見直すことを決めた。22年4月に導入された加算措置は、半年後の10月に修正されたばかりだ。 よりわ 自縄自縛のマイナ保険証対応 診療報酬加算にゆがみ
少子化対策 給付拡充の死角 現金先行は両立にマイナス 辻本 浩子 岸田政権 出生率・少子化 編集委員 12月20日 政府の全世代型社会保障構築会議が報告書をまとめた。「国の存続そのものにかかわる問題」として少子化対策を最優先したのは、大きな一歩だ。特に強調したのは経済的支援で、出産育児一時金の大幅増額や将来的な児童手当拡充などを明記した。 ただ、これで少子化に歯止めがかかるかは未知数だ。とりわけ、両立にかかわる2つの給付の創設は、それ単独では効果が出にくい。「よかれ」をかえってマイナスにしないよう官民あげて働 少子化対策 給付拡充の死角 現金先行は両立にマイナス
痛み止め依存の静かな危機 停滞の打破へ大局観を 岸田政権 菅野 幹雄 12月13日 約3年ぶりに日本を訪れた米国の知人が開口一番に言う。「東京で会う日本人は、なぜ悲観一色なのだろう」 深刻な危機が襲うわけでもない。日本の政治も米欧の混迷ぶりに比べればずっと安定している。だが、人々の話題は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家の関連や新型コロナウイルスへの心配に向かう。なぜ前を向かないのだろう。そんな疑問だ。 日本経済は一時的なマイナス成長を記録したものの、雇用や生産活動はそ 痛み止め依存の静かな危機 停滞の打破へ大局観を
進撃止まる米ITの巨人 間隙を突く革新を 田中 暁人 ビッグテック ネット・IT 編集委員 12月6日 11月中旬、韓国、日本、シンガポールを歴訪した米マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、各国で顧客企業などを招いた講演会に立ち、主要メディアの取材に応じた。 「アジアの伸びに期待している」「あらゆる業種でデジタル化が進む」――。 共同創業者のビル・ゲイツ氏、その後を継いだスティーブ・バルマー氏は競合をたたき潰すアグレッシブなCEOだった。一方で「共感力」を持ち味とする3代目ト 進撃止まる米ITの巨人 間隙を突く革新を
民主主義左右する海底通信網 戦時下で繰り返される切断 ウクライナ侵攻 11月29日 1927年9月、ソ連のウラジオストク日本総領事から外相に打電があった。フランス・パリで定められた海底ケーブル保護条約に関連し、労農赤軍の陸海軍が命令を出しており、それを翻訳したのでよろしく取り計らってほしいという内容である。外相は田中義一、労農赤軍とはソ連の軍のことだ。 ウラジオストクと長崎を結ぶ海底ケーブルは1871年に敷設されている。ソ連軍の命令は、そのケーブルが切断されないよう、不必要に海 民主主義左右する海底通信網 戦時下で繰り返される切断