神々は真っ先に逃げ帰った アンドリュー・バーシェイ著 読書 6月27日 大岡昇平は、デフォー「ロビンソン・クルーソー」から「或(あ)る監禁状態を別の監禁状態で表わしてもいいわけだ」を引用して、「俘(ふ)虜記(りょき)」のエピグラフに添えた。米軍の日本人捕虜収容所の生態は、戦後GHQ占領期日本のありように重ねあわせて表象されたといわれている。 だがこれに対して、シベリア抑留という監禁状態については、どうしてもこれを「別の監禁状態」では表すことができそうにない。なぜソ連 神々は真っ先に逃げ帰った アンドリュー・バーシェイ著
高坂正堯 服部龍二著 批評 読書 12月15日 高坂(こうさか)正堯(まさたか)という名前は、今も書店に並ぶいくつかのその著作、たとえば『国際政治』(中公新書)によって人々に記憶されているのではないか。その活動時期は長く、1960年代から90年代まで、新聞や雑誌、書籍、さらにはテレビなど多くのメディアで、高坂は活躍した。 ところが、その人と時代についての本格的な評伝は、日本政治外交史研究者として活躍する著者による本書が最初となる。すでに多くの 高坂正堯 服部龍二著
教養派知識人の運命 竹内洋著 批評 読書 10月27日 思想の歴史を描く際の技法に「評価の反転」がある。丸山眞男のようなヒーローについては、むしろその地位を相対化し、蓑田胸喜らのヴィラン(悪役)には、一定の同時代的な意義を認めたほうが深みが出る。竹内洋氏による戦後論壇史や戦前の日本主義の研究は、まさにその精華であった。 その氏が今回取りあげるのは、大正教養主義の代表とされる阿部次郎。1914年に『三太郎の日記』を学生の必読書と呼ばれるベストセラーにす 教養派知識人の運命 竹内洋著
蔵書のゆくえ その2 甲南大学教授 田中貴子 あすへの話題 9月25日 前回、東京女子大学の丸山眞男文庫プロジェクトを故人の「知のアーカイブズ」保存の一つの方向として評価したが、ウエブ上で書庫や蔵書の配列が再現できるというのは魅力的である。公刊されている書籍なら誰でも対価を払って入手できる印刷物にすぎないが、いったん特定の個人の手に渡った瞬間から特別な意味を持ち始めるからである。どんな本をどのように並べたか、書き込みや線引きはあるか。それらを知ることは、その人の思考 蔵書のゆくえ その2 甲南大学教授 田中貴子
蔵書のゆくえ その1 甲南大学教授 田中貴子 あすへの話題 9月18日 本棚を眺めていて、自分が死んだらこれらはどうなるのかと考えたことは一度や二度ではない。おそらく、大量の書籍や資料を所有する人なら誰でもその経験はあるだろう。稀覯書(きこうしょ)の類はないものの、私の血や肉を作り上げてきた材料が詰まっているからだ。フランス文学者である桑原武夫の蔵書が遺族に無断で寄贈先の図書館に廃棄されたという「事件」は、その意味で痛恨事だった(日経新聞2017年4月28日夕刊)。 蔵書のゆくえ その1 甲南大学教授 田中貴子
企業と就活生 続く化かし合い(平成の30年) 平成の30年 4月21日 バブル景気、就職氷河期、そして再び売り手市場へ。この30年間で大学生の就職活動を取り巻く環境とルールはめまぐるしく変わった。その一方で新卒一括採用という日本独自の慣行は厳然と残り、企業と学生の化かし合いは続く。就活と働き方を巡る平成の改革は、日本社会に何を残したのか。 「遊びゴコロ、カンパニー」というキャッチコピーに「やわらか頭してまーす」というナレーション。住友金属工業(当時、以下同)がそんな 企業と就活生 続く化かし合い
丸山眞男さんの憂鬱 社会学者 橋爪大三郎 あすへの話題 10月10日 丸山眞男さんは、戦後を代表する知識人で政治学者。私の師・小室直樹博士は、東大の大学院で丸山教授の指導を受けた。だから私は、丸山さんの孫弟子にあたる。 丸山さんの代表作は『日本政治思想史研究』。江戸の儒者荻生徂徠の「作為」の思想が、明治につながる近代の萌芽(ほうが)だと結論する。小室博士も同書を高く評価する。 でも私は腑(ふ)に落ちない。徂徠は、朱子学に反対する古学者で、聖人の教えに戻れと説く。朱 丸山眞男さんの憂鬱 社会学者 橋爪大三郎