伊集院静「ミチクサ先生」(232) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月25日 その年の五月から六月にかけて熊本地方は例年になく雨の日が続き、そのまま梅雨入りした。 市中を流れるあちこちの川の水嵩(みずかさ)が増していた。 伊集院静「ミチクサ先生」(232)
伊集院静「ミチクサ先生」(231) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月24日 「本当に先生のお人好しも、いい加減にしてもらわないと困ります」 台所で女中のとくが怒ったように言った。 「何がですか?」 伊集院静「ミチクサ先生」(231)
伊集院静「ミチクサ先生」(230) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月23日 春の学期末試験が終って一段落したと思ったら、大江村の屋敷の持ち主の落合東郭が皇太子傅育(ふいく)官の職を辞し、熊本に帰郷すると報(しら)せが入った。 伊集院静「ミチクサ先生」(230)
伊集院静「ミチクサ先生」(229) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月22日 小天(おあま)から戻ってしばらくして、前田家からミカンと乾椎茸(しいたけ)が届いた。 二月の紀元節は熊本も珍しく雪が降った。 伊集院静「ミチクサ先生」(229)
伊集院静「ミチクサ先生」(228) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月21日 ツナコは素っ気なかった。 彼女の妖艶な肢体を勝手に湯舟の中から見たのはこっちだし、つれなくされて怒る筋合いもない。 伊集院静「ミチクサ先生」(228)
伊集院静「ミチクサ先生」(227) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月20日 明治三十一年の正月、金之助は小天(おあま)温泉、前田家三号室の窓辺に座り、むかいの居間から聞こえて来る笑い声を聞いていた。 別荘の男女衆が手持ち無沙汰なのか、 伊集院静「ミチクサ先生」(227)
伊集院静「ミチクサ先生」(226) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月19日 師走の二十八日、金之助は山川と荒尾橋を渡り鎌研坂(かまとぎざか)を登っていた。 山川が楽しそうに言った。 伊集院静「ミチクサ先生」(226)
伊集院静「ミチクサ先生」(225) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月18日 「……そうか、人間というものは、同じような光景を見た時に、記憶がよみがえるのか」 金之助はもう一度、沈もうとする夕陽を見た。 伊集院静「ミチクサ先生」(225)
伊集院静「ミチクサ先生」(224) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月17日 「まあ、本当にそんなことを旦那さまが奥さまにおっしゃったのですか?」 「はい。"あいつが、俺の本当の好みの女性さ"って何やらなつかしそうな顔をして笑っておられました。 伊集院静「ミチクサ先生」(224)
伊集院静「ミチクサ先生」(223) 伊集院静「ミチクサ先生」 1月16日 夕刻、金之助は屋敷の庭に出て、一面にひろがる桑の畑を眺めていた。 その日の夕陽は特別美しかった。 あざやかに染まった彩雲がいく層にも重なり、 伊集院静「ミチクサ先生」(223)