らせん状想像力 福嶋亮大著 読書 12月12日 文学という営みは、それを取り巻く時代から大きな影響を受けている。ちょうど30年という区切りで終わった「平成」の文学が立ち入った袋小路と、それゆえに持った可能性の諸相を、同時代を生きた批評家の義務として、できる限り多様な事例を検討しながら、6点からなる「問題群」に絞り込むことで論じ尽くそうとした意欲作である。個別の作家、個別の作品を論じないことで逆に独自性をもった歴史批評、一つの表現史の提示ともな らせん状想像力 福嶋亮大著
想像力で「ポスト真実」に対抗 カバーストーリー 12月8日 客観的な事実より都合のよい虚偽によって世論が形成されやすくなった近年は「ポスト真実」の時代とされる。新型コロナウイルスの感染拡大が社会の分断を進めた2020年は、その傾向がさらに強まった。作家たちは豊かな想像力を用いて「都合の悪い」物語を示すことで「ポスト真実」への抵抗を試みる。 磯﨑憲一郎「日本蒙昧(もうまい)前史」(谷崎潤一郎賞)は1970年の大阪万博や72年の日本兵帰還、76年の五つ子誕生 想像力で「ポスト真実」に対抗
装幀者の後ろ付き 装幀家 菊地信義 エッセー 9月27日 装幀(そうてい)者のドキュメンタリーを制作したい。テレビの特別枠で放映。1時間半程の作品に仕上げる。制作期間は1年。以前、同様の企画を制作会社から持ち掛けられた。 一つ目は、装幀者の旅。ドイツのブックフェアやグーテンベルクの博物館へ。フランスで手漉(てすき)の紙を作り、ポルトガルの大学図書館で中世の書籍を観(み)る、等等。二つ目が、装幀者の仕事。作家や編集者との打合わせ。原稿制作の過程。印刷物の 装幀者の後ろ付き 装幀家 菊地信義
松浦晃一郎(4)小説家へ切磋琢磨 松浦晃一郎 私の履歴書 8月4日 学習院中等科を卒業すると最難関とされていた日比谷高校に進んだ。都立高校を受験すると高等科への内部進学はできなくなる。父は「日比谷に受かるのか」と渋った。浦和であった2000人が受けた模擬試験でトップを取り、受験を許してもらった。 日比谷高校で思い出深いのが社会科の木下航二先生だ。テーマを出し、生徒に自由に意見を言わせた。 サンフランシスコ講和会議で西側諸国とだけ平和条約を結んだ単独講和でよかった 松浦晃一郎(4)小説家へ切磋琢磨
太宰治も開高健も町田康も お酒と文学はなぜ親しい? 3月19日 酒と文学の関わりをつづった本が相次いでいる。作家の酔い方を紹介し、酒にまつわるエッセーやマンガを収める。中には断酒経験を描いた本も。酒は創作の糧か、それとも邪魔者か。 酒と文学と聞いて、まず思い出すのは太宰治、坂口安吾ら無頼派と呼ばれた作家たちだろう。「坂口安吾全集」(筑摩書房)の編集に関わった文芸評論家の七北数人氏は「泥酔文学読本」(春陽堂書店)を2019年5月に出版した。安吾をはじめ作家の酒 太宰治も開高健も町田康も お酒と文学はなぜ親しい?
言葉の力がひそむ小説家 古井由吉さんを悼む カバーストーリー 2月28日 古井由吉氏に初めて会ったのは、当時「文芸」の編集長であった寺田博氏が計画した「現代作家の条件」と題した座談会の席であった。一九七〇年三月号の「文芸」に掲載された五人の新人作家による座談会で、メンバーは阿部昭、黒井千次、後藤明生、坂上弘、古井由吉の五人であった。年齢は古井由吉が最も若く三十二歳、こちらが後藤明生と同年で三十七歳、その間に阿部昭と坂上弘の二人が挟まれていた。 その座談会が忘れられない 言葉の力がひそむ小説家 古井由吉さんを悼む
古井由吉氏死去 五感生かし生の深淵に迫る 文化往来 2月27日 2月18日に82歳で亡くなった古井由吉氏は、五感を十全に生かし、生の深淵に迫った作家だった。70代以降はほぼ隔月ごとに短編を文芸誌に発表し、それを単行本にまとめてきた。子どもの頃に一家で引っ越した経験を振り返る短編などを収めた「鐘の渡り」について、2014年に取材したときには「音や声を通じて時間や空間を表現したいと思っている。年を重ねるにつれて、耳は不思議な鋭敏さを持つようになった」と話していた 古井由吉氏死去 五感生かし生の深淵に迫る
古井由吉さんが死去 濃密な文体、「杳子」で芥川賞 2月27日 濃密な文体で人間の狂気や生死を見つめた「内向の世代」の作家、古井由吉(ふるい・よしきち)さんが2月18日午後8時25分、肝細胞がんのため東京都内の自宅で死去した。82歳。告別式は近親者で行った。喪主は妻、睿子(えいこ)さん。 東京大独文科卒業後、ブロッホなどドイツ文学の翻訳を手掛け、大学でドイツ語を教えた後、30代で作家専業に。山の中で出会った青年と病んだ女子大生の恋愛を幻想的に描いた「杳子」で 古井由吉さんが死去 濃密な文体、「杳子」で芥川賞
ハマる文芸書 読み巧者が選んだオススメ本 カバーストーリー 読書 12月29日 年末年始に読みたい文芸書は何か。文芸評論家の清水良典氏ら読み巧者が選んだ文芸書の中から、2019年に本紙読書面で大きく取り上げた10冊の書評を紹介します。 ■「夏物語」川上未映子著 新しい時代の生殖倫理映す ■「むらさきのスカートの女」今村夏子著 軽んじられる側へいざなう ■「オーガ(ニ)ズム」阿部和重著 虚実交錯 もう一つの現代史 ■「生のみ生のままで(上・下)」綿矢りさ著 ハマる文芸書 読み巧者が選んだオススメ本
女性作家の力作相次ぐ 回顧2019 小説 読書 12月29日 平成から令和へ、崩御という悲劇のないままの皇位継承は、祝賀ムードの中であっさりと時代の看板をかけ替えた。「平成最後」を盛んに謳(うた)った昨年に比べると、新時代への改まった気負いは薄く、世を覆う混迷や矛盾、不安や不満は出口の見えぬままである。その中でSNSが世界を変える影響力を持ちつつある。とりわけ如実に高まったのは「#MeToo」に代表される女性の声だろう。小説でも女性の力作が印象に残る一年だ 女性作家の力作相次ぐ 回顧2019 小説