文学で考えるもう一つの日本近代 カバーストーリー 10月26日 二・二六事件に材を採った三島由紀夫の短編小説「憂国」は、勅命によって仲間の決起将校たちを討たざるを得なくなった陸軍中尉が、苦悩の末に妻と心中する物語だ。 発表は1961年1月刊行の雑誌。それから70年11月に東京・市ケ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺するまでの10年に、文芸評論家で多摩美術大学教授の安藤礼二氏(53)は注目する。「それまでと創作姿勢を変え、日本近代のゆがみを文学によって乗り越えようとし 文学で考えるもう一つの日本近代
石坂洋次郎の逆襲 三浦雅士著 読書 3月28日 石坂洋次郎は『青い山脈』をはじめ、戦後民主主義を体現した青春小説の書き手として名を馳(は)せたが、70年代以降は急速に忘れられた。とっくに時代遅れになった昭和の流行作家――、それが大方の読者のもつ石坂像ではないか。 しかし、本書はそのような先入観を一変させるものである。津軽生まれの石坂と同郷の三浦雅士は、宮本常一やエマニュエル・トッドらを導きの糸とした人類学的な視点、およびフェミニズム的な視点か 石坂洋次郎の逆襲 三浦雅士著
詩人・蜂飼耳さん 鹿の角が語りかけてくること カバーストーリー 3月21日 はちかい・みみ 1974年神奈川県生まれ。詩人・作家。4月から立教大文学部教授。主な詩集に「食うものは食われる夜」(芸術選奨新人賞)、「顔をあらう水」(鮎川信夫賞)。他に小説「紅水晶」「転身」、絵本「うきわねこ」など。 ■文鎮の石 六年前の初秋に私の父は亡くなった。その夏、八月一五日前後のことだった。暑さに日々衰えて心臓も弱っていた父の口からぽつりと「俺たちの世代は」と言葉が出た。「あいまいな世 詩人・蜂飼耳さん 鹿の角が語りかけてくること
列島祝祭論 安藤 礼二著 読書 11月30日 異形の表情を漂わせた著書ではなかったか。それが、令和の新たな天皇の代替わりに重ねるように刊行されたことは、きっと偶然ではない。もはや、天皇という存在について、象徴天皇制について、この社会は真っすぐに問いかけることをやめてしまったようだ。たとえば、折口信夫の「大嘗祭の本義」は命脈が尽きたのか。実証史学が言うように、天皇の即位における大嘗祭が、たんなる神人共食の儀礼にすぎないならば、たしかにそれ以上 列島祝祭論 安藤 礼二著
大嘗祭、古代回帰が本義 岡田荘司・国学院大名誉教授 「令和」新時代 11月6日 11月14~15日に天皇が行う大嘗祭(だいじょうさい)について、各方面の意見を聞く。今回は岡田荘司・国学院大名誉教授。 ――平成の大嘗祭前に、当時は主流だった民俗学者・折口信夫の「秘儀」説に異論を唱えられました。 天皇が天孫降臨神話のニニギノミコトのように寝具の真床覆衾(まどこおぶすま)にくるまって「天皇霊」を身につけるという説ですね。折口さんは1928年(昭和3年)に「大嘗祭の本義」で真床覆衾 大嘗祭、古代回帰が本義 岡田荘司・国学院大名誉教授
天皇の言葉がつなぐ歴史 文芸評論家 安藤礼二 カバーストーリー 10月22日 歴代の天皇の即位礼には、時代を超えて変わらない要素がある。文芸評論家の安藤礼二氏によると、なかでも天皇が自らの即位を広くのべる言葉は、日本の過去と現在を結び合わせる働きを持つとされてきた。 歴史を見ると、新たに天皇の位につく者は即位式(即位礼)を行い、大嘗祭(だいじょうさい)を営まなければならない。即位式は、天皇の位を継ぐ者が「高御座(たかみくら)」に登り、自らの言葉で即位を宣言する。 大嘗祭は 天皇の言葉がつなぐ歴史 文芸評論家 安藤礼二
西浦田楽1300年 夜通し舞う カバーストーリー 1月25日 浜松市水窪町(みさくぼちょう)の山あいにある西浦(にしうれ)地区には、1300年前から受け継がれる伝統芸能「西浦の田楽」がある。毎年旧暦1月18日(今年は2月22日)の月の出から翌日の日の出まで、西浦観音堂で夜を徹して田楽を奉納する。五穀豊穣(ほうじょう)や無病息災を願う神事だ。 舞い手の「能衆」である私は22歳の時から50年以上、舞台の舞庭に立ち続けてきた。現在は能衆の筆頭である「能頭(のうが 西浦田楽1300年 夜通し舞う
「来訪神」が無形遺産に決定 ナマハゲなど10行事 11月29日 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は29日、インド洋のモーリシャスで政府間委員会を開き、日本政府が申請した「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録することを決めた。来訪神は「男鹿のナマハゲ」(秋田県男鹿市)など8県10件の行事で構成される。登録は2016年の「山・鉾・屋台行事」以来となる。 来訪神は、正月など年の節目に仮面をつけたり仮装したりした人が「神」として家々を訪れる行事。人々に幸福 「来訪神」が無形遺産に決定 ナマハゲなど10行事
折口信夫 秘恋の道 持田叙子著 批評 読書 10月20日 「折口信夫が求める折口信夫論の一つの理想形とは、恋愛小説であるのではないか」という、あとがきの言葉がすべてである。本書は折口信夫の評伝であると同時に物語なのだ。 それは小説『死者の書』が折口の古代研究の精華であるように、創作こそが最高の評論たり得るという論理である。 一巻を貫く糸は、題名通り恋だ。 折口の恋といえば、近年富岡多恵子が発見し、さらに安藤礼二が解明した、僧侶藤無染との関係が注目される 折口信夫 秘恋の道 持田叙子著
平成の天皇と皇后 皇后さまの歌の発信力 天皇退位 平成の天皇と皇后 7月20日 1995年(平成7年)、歌人の岡井隆さんが、戦後50年の節目に編んだ「現代百人一首」。敗戦からバブル崩壊までの秀歌をより抜いた。斎藤茂吉、釈迢空、塚本邦雄、寺山修司……。著名歌人にならび皇后さまの歌が収められている。 〈音さやに懸緒(かけを)截(き)られし子の立てばはろけく遠しかの如月(きさらぎ)は〉。長男、浩宮さま(皇太子さま)の成人を祝う宮中儀礼「加冠の儀」の様を詠まれた。 成人の印である冠 平成の天皇と皇后 皇后さまの歌の発信力