「疫病の文明論」まとめ読み 歴史・世界・人間を考える 新型コロナ カバーストーリー 5月9日更新 ペスト、コレラ、結核、そして新型コロナウイルス――。繰り返し人類を襲い、社会を危機に陥れてきた疫病は、文明の大きな転換点ともなってきました。いま私たちは新たなパンデミックの経験から何を学べるでしょうか。人文・社会科学の有識者による連載「疫病の文明論」(全7回)をまとめました。 ◇ ■6世紀から18世紀にかけて欧州で蔓延(まんえん)したのがペストでした。身分に関係なく「平等に」襲いかかる死は、階級社 「疫病の文明論」まとめ読み 歴史・世界・人間を考える
公益を守る国家緊急権 損害補償、社会全体で負担を 新型コロナ カバーストーリー 5月2日 ヨーロッパ人のもたらす疫病に新大陸の人びとは苦しんだ。ラス・カサス「インディアスの破壊についての簡潔な報告」(岩波文庫)は、400年前の壊滅的な被害を記録する。レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」(中公クラシックス)も、感染症の悲惨を描く。 パンデミックは繰り返す。100年前はスペイン風邪。その再来が新型コロナだ。当時より医療も情報も整っている。どう戦うか。政府の役割が大きい。人員と予算と権限があ 公益を守る国家緊急権 損害補償、社会全体で負担を
21 Lessons ユヴァル・ノア・ハラリ著 読書 2月1日 彗星(すいせい)のように現れたハラリ氏の新著。『サピエンス全史』では人類の過去を探究し、『ホモ・デウス』では未来を展望した氏が、今回は混迷する現代を総ざらいする。 取り上げるテーマは、雇用/自由/平等から、宗教/移民、テロ/戦争/神、正義/ポスト・トゥルース/意味といった難題まで、誰もが躓(つまず)き悩む21の疑問を、レッスン形式で解き明かす。文体は軽やかで、重すぎない。情報の海で溺れかけている 21 Lessons ユヴァル・ノア・ハラリ著
ナガサキ スーザン・サザード著 批評 読書 8月17日 核爆弾が炸裂(さくれつ)すると、灼熱(しゃくねつ)の光線がまず地を焼く。次に猛烈な爆風が襲い、放射能も降り注ぐ。それを生き抜いた被爆者5人の証言を軸に、アメリカの女性研究者が10年あまりの労苦の末まとめたのが本書だ。 著者はスーザン・サザード氏。高校生のとき日本に留学し、長崎の資料館を見学してショックを受けた。十数年後、被爆者の講演の通訳を担当した縁で、ナガサキと向き合うことを決意した。 著者が ナガサキ スーザン・サザード著
平成の「精神混迷」を書物で振り返る 閉塞の正体とは 3月23日 平成は、混迷の30年だった。精神の世界も同じである。人びとは課題を捉え損ね、捉えても解き損ね、解いても実行し損ねた。 昭和にはまだ目標があった。人びとは目標に向かって進む手応えに満足できた。平成元年は1989年。冷戦が終わりバブルが崩壊した。昭和の繁栄を支えてきた前提(国際環境)が崩れ去った。 加藤典洋氏の『敗戦後論』(講談社・1997年、現在はちくま学芸文庫)は、戦後の虚(うつ)ろな内側を深く 平成の「精神混迷」を書物で振り返る 閉塞の正体とは
人間力磨く異色のMBA、哲学からAIまで 日経産業新聞 コラム(ビジネス) 2月8日 東京・日本橋の一角に異色の大学院大学がある。狙うは世界水準のリーダー人材育成。学生の4割は外国人で、30代を中心にスタートアップ経営者から企業の幹部候補生までが集う。時代と社会の変化を捉えるリベラルアーツ(教養)をはじめ独自の教育プログラムが売り物だ。最先端の「知の拠点」の全貌とは。 再開発が進む日本橋。日本橋高島屋三井ビルディング17階にキャンパスはある。昨年8月に開学した至善館(しぜんかん) 人間力磨く異色のMBA、哲学からAIまで
神と金と革命がつくった世界史 竹下節子著 批評 読書 11月17日 人類一人ひとりの罪を贖(あがな)うためイエス・キリストが十字架で犠牲になったと教えるキリスト教。全世界のプロレタリアよ団結せよと呼びかけるマルクス主義。この2つの普遍思想が、ナショナリズム(自国ファースト)の逆風のなか近現代に、どんな格闘の軌跡を残したのかを追いかけている。 たとえば、解放の神学。ラテン・アメリカに赴任した神父たちは驚いた。多国籍企業がわが物顔にふるまい、政府は腐敗し、格差と貧困 神と金と革命がつくった世界史 竹下節子著
評伝 小室直樹(上・下) 村上篤直著 批評 読書 11月10日 学者には奇人変人が少なくない。しかし、研究のほうは常識的で凡庸というただの奇人変人もいる。本書の小室直樹は、ノーベル賞に社会学や政治学があったら、受賞したかもしれないスーパー学者。奇人変人ぶりもなまなかではない。ロッキード事件公判で、検察側が田中角栄に論告求刑をした日の生放送中、小室は「検事を殺せッ!」と絶叫する。スタジオが大混乱になり、退場させられた。 若き小室はフルブライト留学生として渡米し 評伝 小室直樹(上・下) 村上篤直著
新宿騒乱事件から50年 あのときの若者たちは今 10月20日 今から半世紀前の10月21日、新宿駅でベトナム戦争反対を訴える学生らが暴徒化し、700人以上が逮捕される「新宿騒乱」事件が起きた。反戦を訴えるはずの若者たちが、投石と放火で機動隊と衝突し、ホームを一時占拠した。あのとき現場にいた学生たちは何を思い、その後どんな人生を歩んだのか――。 「信じる正しさのために、自分ができることをしたかった」。東京工業大名誉教授で社会学者の橋爪大三郎さん(69)は新宿 新宿騒乱事件から50年 あのときの若者たちは今
「右翼」の戦後史 安田浩一著 批評 読書 9月22日 「右翼」と聞いて、大音量の街宣車が頭に浮かぶのは時代遅れ。いま主役は「日本会議」とネトウヨだ。戦後の混乱期このかた、さまざまな右翼が盛衰してきた。著者は長年の取材をもとに、そんな右翼の全体像をスケッチする。 そもそも右翼とは何か。頭山満が明治14年(1881年)結成した玄洋社が最初だ。自由民権運動を基盤に、皇室尊崇、国権伸長、大アジア主義を唱えた。その後右翼と軍部は利用し合い対立もしつつ、日本全 「右翼」の戦後史 安田浩一著