賢者の遺産 批評家 若松英輔 エッセー 4月3日 1894年、日清戦争が起こった年のことである。キリスト教思想家、内村鑑三が「後世への最大遺物」と題する講演を行った。聴衆となった若者たちを前に内村は、人間は後世に何を遺(のこ)し得るのかをさまざまな角度から語った。形あるものとしては金銭、そして事業、形なきものとしては言葉と思想、なかでも彼がもっとも熱を込めて語ったのは、「高尚なる勇ましい生涯」だった。 内村は多額の金銭や雇用を生む事業を遺すこと 賢者の遺産 批評家 若松英輔
魂の邂逅 米本浩二著 読書 1月16日 この世と折り合いがよくない。石牟礼道子は生まれたときからそうだった。「いったん泣き出すと、身も世もなく泣いて、引きつけを起こすまで泣きやまない。火がついたように泣く」。石牟礼の母ハルノが渡辺京二に語った逸話は、道子の生涯を象徴している。この言葉を受けて渡辺は「生まれたときからこの世とうまくいっていない」と語る。 だが、こうした出来事は、同時に石牟礼道子の魂の目覚めを告げ知らせるものでもあった。彼 魂の邂逅 米本浩二著
「進歩と発展」への問題提起 日経読書面今週の5冊 9月1日 毎週土曜日付の日本経済新聞の読書面で、評者の署名入り書評を掲載した本を紹介します。書評は日経電子版で読むことができます。 ◇ ◇ ◇ 文明が不幸をもたらす クリストファー・ライアン著 >>日経電子版で書評を読む 「進歩と発展と努力の果てに」 戦後日本、記憶の力学 福間良明著 >>日経電子版で書評を読む 「戦争経験を語 「進歩と発展」への問題提起 日経読書面今週の5冊
霧の彼方 須賀敦子 若松英輔著 読書 8月29日 須賀敦子をめぐっては、これまで松山巖による評伝、湯川豊による担当編集者としての読解、大竹昭子による須賀の足跡をたどる旅の記録と、深い交流のあった人びとによる哀惜と追悼の言葉が紡がれてきた。 齡(よわい)60を越えてから纏(まと)めた第一作品集『ミラノ 霧の風景』で一躍注目をあつめ、69年の生涯を終えるまでの歳月7年をどう受けとめるか。短いが稠密(ちゅうみつ)な「作家」活動期間との見方が大勢を占め 霧の彼方 須賀敦子 若松英輔著
改元、台風、ラグビーW杯…文筆家たちはどう見たか カバーストーリー エッセー 12月30日 今年もあと2日。2019年も国内外で大きなニュースが相次いだ1年だった。作家や学識経験者らが日本経済新聞に寄稿したエッセーで今年を振り返る。 ◇ ■今年の年明けは米国、2月は日本列島を記録的な寒波が襲った。北海道ではほぼ全域で最高気温が氷点下10度を下回る日があった。 ・寒波の中のどさんこたち 松岡和子(翻訳家) ■東日本大震災から8年。3月11日が巡って来るたび、日本人の胸には様々な思いが去来する。 改元、台風、ラグビーW杯…文筆家たちはどう見たか
日本は特別な場所 ローマ法王が38年ぶり来日 11月20日 ローマ法王フランシスコ(82)が23~26日、来日する。カトリックの最高権威である法王は現代世界の政治や社会、文化に大きな影響力を持つ。批評家の若松英輔氏が解説する。 もっとも小さな国家であるバチカン市国の元首であり、同時に12億人の信徒が連なる世界最大の宗派であるカトリック教会の指導者、それがローマ法王だ。前法王のベネディクト16世が生前の退位を表明したのが2013年2月、翌月フランシスコが第 日本は特別な場所 ローマ法王が38年ぶり来日
現代の死に方 シェイマス・オウマハニー著 批評 読書 12月15日 現代の医療は死を隠蔽している。当然、医者は死を知らない。そればかりか、どこかで死という問題を避けているところがある。遺体を見ることは多くあっても、死の先に何があるのかを不問にしている。そんな自覚から、本書は生まれた。 死は、万人に訪れる。けっして医療によって「隠されてはならない」と著者はいう。この人物はアイルランド人の消化器系を専門とする現役の医師で、終末期医療の現場に立っている。 この本は後悔 現代の死に方 シェイマス・オウマハニー著
詩歌文学館賞決まる 3月8日 第33回詩歌文学館賞(日本現代詩歌文学館振興会など主催)が8日発表され、詩部門は若松英輔さん(49)の「見えない涙」(亜紀書房)に、短歌部門は伊藤一彦さん(74)の「遠音よし遠見 詩歌文学館賞決まる
小林秀雄 美しい花 若松英輔著 批評 1月20日 どんな分野でも一時代を画す人には独自のスタイルがある。話は文体に限らず、詩人なり哲学者なりという存在のイメージが、ある個人名とむすびついて生々しく現れるのだ。近現代の日本語世界で批評家としてそんな位置を占めるのは、まず小林秀雄。疑いの余地はない。 彼の名を聞くとき、ぼくは自動的にたとえば「ひとりの作家を読むなら全作品を読め」とか「一冊の本は四回くりかえして読め」といった読書指南を連想する。だが困 小林秀雄 美しい花 若松英輔著