故・渡辺京二さん(日本近代史家) 名もなき人々追った筆 追想録 編集委員 3月17日 歴史と社会を鋭くうがつ息長い活動の原点は1961年の随筆「小さきものの死」にある。旧制五高(現・熊本大)時代に結核療養所へ入った折の体験だ。 新たに入院してきた母娘の部屋から、夜、笑うような奇妙な泣き声がする。翌朝、看護師から2人とも亡くなったと聞いた。若き氏は死の淵にある母が娘の体をさするさまを想像し、震えた。「人はこのように死なねばならないことがある」 近代以前、庶民は自然や環境と共鳴しなが 故・渡辺京二さん(日本近代史家) 名もなき人々追った筆
ニッポンのイヌの物語 歴史が紡いだ人との絆を感じて The STYLE 編集委員 3月10日 キッと顔を上げ、空を見据える。まっすぐで利発そうな面差しに、歴史がはぐくんだ人との良きパートナーシップがにじむ。新型コロナウイルス禍で犬との距離がさらに縮まったことに加えて、生物多様性の観点からも、天然記念物に指定されているような希少な種をはじめ、そのつながりは太さを増している。走れ、跳べ、ニッポンの犬たち! 人々の歴史に寄り添って 南北に長い日本列島で、多様な環境の中、人との絆を深めてきた犬た ニッポンのイヌの物語 歴史が紡いだ人との絆を感じて
忠犬ハチ公生誕100年 戦前戦後、日本の変貌とともに 風紋 コラム 3月5日 今や世界的に著名な像となった東京・渋谷駅前の忠犬ハチ公。今年で生誕100年を迎える。11年余の生涯の後、この秋田犬は約90年も愛され続けた。像をめぐる逸話からは近現代の日本の変貌もうかがえる。 調べてみると、ハチには歴史上の人物並みの膨大な史実の蓄積がある。 1923年11月10日に秋田県大館市で誕生。生まれたのは国連事務次長などを歴任した明石康さんの母の実家だった。 生後ふた月の24年1月、現 忠犬ハチ公生誕100年 戦前戦後、日本の変貌とともに
粛清の記録と文学からみるロシア 文化時評 編集委員 コラム 2月19日 「国家の中の国家」。こんな表現が何度も出てくる。1930年代に旧ソ連へ密入国し、スターリン粛清を生き延びた日本人で21年前に死去した寺島儀蔵さんの手記のことだ。「国家保安委員会」と呼ばれる情報機関KGB(旧GPU)のことである。現在はFSB(ロシア連邦保安局)と改組した。 寺島さんは、身に覚えのない国家反逆罪でいったん銃殺の判決を受けながら突如、25年の禁錮に減刑。極寒の収容所で20年近く労働を 粛清の記録と文学からみるロシア
ウィズコロナと「祈り」のかたち Nikkei Views 編集委員 1月3日 俳句や和歌につきものの「季語」を網羅した歳時記。大部のものには、春・夏・秋・冬のほかに「新年」の分冊のあるものが多い。 試みに「新日本大歳時記」(講談社)の「新年」の巻をめくると、「門松」や「鏡餅」などのほか、元日に初めてくむ「若水」や、15日の小正月の前後に行われる「左義長」(どんど焼き)など多彩な行事や祭りが記されている。改まる年に込めた人々の切実な祈りと願いのかたちが伝わる。 歳時記には、 ウィズコロナと「祈り」のかたち
多面的な見方を養う 野上麻理さんに力を授けた本 編集委員 カバーストーリー 読書 12月3日 ■自他ともに認める読書家の原点は、幼いころに父親から毎晩、本を読んでもらった体験だ。 今では手に入りにくいのですが『松谷みよ子のむかしむかし』(全10巻)の中から、父がひとつずつお話を読んでくれました。このシリーズは昔話だけでなく古事記などの神話も広く収めていて、飽きさせなかったです。 そのおかげもあり、大の本好き、活字好きに。10代に入ってからは江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに始まりアガサ・ク 多面的な見方を養う 野上麻理さんに力を授けた本
亡き名監督、町おこしに一役 ファンや役者引き込む磁力 風紋 コラム 編集委員 11月27日 映画「セーラー服と機関銃」に「台風クラブ」そして遺作の「風花」。独特のカメラの長回しと役者を追い込む演出法で一時代を築いた相米慎二監督が53歳で死去し、今年で21年がたった。墓と慰霊碑がある地では年に一度の「映画祭り」も恒例となり、往時をしのぶ俳優陣らが足を運ぶ。今なお衰えぬ人気は町おこしにも一役買っている。 プロフィルでは岩手県生まれで北海道育ちの監督だが、父親の出身地が青森県田子(たっこ)町 亡き名監督、町おこしに一役 ファンや役者引き込む磁力
古希を迎えるテレビはどこへ 文化時評 編集委員 コラム 8月21日 テレビを買ってくれないなら、一切しゃべらない。だんまり戦術だ。 小津安二郎監督の映画「お早よう」は、新興の住宅地に住む兄弟と、その両親の駆け引きをコミカルに描く。1959年の公開だ。 劇中、兄の方は初歩の英語を音読している。13歳とすれば現在は70代半ば。テレビほしさに、子ども時分、同様の策を弄した方もいるかもしれない。 テレビの本放送は53年2月のNHKが最初で、同年8月には日本テレビが後を追 古希を迎えるテレビはどこへ
古刹再生担うボランティア 寺院残す意義、考え直す 風紋 編集委員 8月14日 寺に人々が望むものは、いったい何だろう――。そんな問いを胸に、古刹再生に取り組む住職とボランティアがいる。手探りの復興は、混迷の世に寺院の役割を考え直す試みでもある。 京都市山科区の真言宗、安祥寺は9世紀の創建。かつては広大な地に別坊700余りを擁し、密教の僧侶を育てる国家的な機関の役割も担った。応仁の乱で灰じんに帰すが、徳川家康の令で寺域を回復している。 足を踏み入れると、緩やかな斜面にコケが 古刹再生担うボランティア 寺院残す意義、考え直す
魂と輪廻への思い 能楽師・山本章弘さんを導いた本 編集委員 読書 1月8日 弟子でもある長男が悩む姿に接する中、一冊の本に触れ、人の生や死を巡り改めて思いを深めた。 私の観世宗家での修業時代は「内弟子は空気のように」「芸は盗むもの」と教えられたものです。数年前、当時は20代前半だった長男にも芸の道を継いでほしいと願って、時に厳しく指導していました。が、本人は自らの将来についていろいろと考え込んでしまったようです。私自身も、このやり方で良いのかと悩むうち、僧侶、南直哉さん 魂と輪廻への思い 能楽師・山本章弘さんを導いた本