科学が追う「不老不死」の物語 テック長者が私財投じる 矢野 寿彦 編集委員 コラム 6月4日 科学史には20世紀に2つの金字塔が打ち立てられた。ひとつはアインシュタイン博士による最も美しい公式「E=mc²」。エネルギーと質量の関係をこう表現し、その後の物理学の礎となった。もうひとつがワトソン、クリック両博士が提唱した「DNAの二重らせん構造」。70年前の1953年4月に論文を発表、生命科学やバイオテクノロジーへの道を切り開いた。 ゲノムという遺伝情報の登場によって、生き物や命というどこか 科学が追う「不老不死」の物語 テック長者が私財投じる
欧米オペラ、舞台から吹くダイバーシティーという新風 瀬崎 久見子 編集委員 コラム 5月28日 日本でオペラやミュージカルを見ていると気づきにくいが、欧米では、新型コロナウイルス禍の前後から、舞台上の多様性、ダイバーシティーがかなり進んでいる。 ジェシー・ノーマンのような黒人のソプラノのスターや、黒人主演によるシェークスピア劇に挑む人は以前からいた。しかし近年、その層が格段に厚くなった。映画、ドラマは言うに及ばず、オペラにも「椿姫」のヴィオレッタなど有名な役を各地で歌って人気を博す黒人歌手 欧米オペラ、舞台から吹くダイバーシティーという新風
コンビニ誕生50年 薄暗い店舗の問いかけ 大岩 佐和子 編集委員 コラム 5月14日 舞台は1970年代の東京郊外。深夜も営むパン屋があり、徹夜でマージャンを楽しむ学生らに「キチパン」という愛称で親しまれていた。暗闇の街に煌々(こうこう)と輝く小さな明かりは、空(す)き腹を癒やしてくれる駆け込み寺だった。それからほどなくして、キチパンがあちこちに出現し始める。そう、それはコンビニエンスストアの夜明けだった。 コンビニ最大手のセブン―イレブン・ジャパンが生まれてから今年で50年を迎 コンビニ誕生50年 薄暗い店舗の問いかけ
芸術家マティスらに学ぶ 「老いの力」が生む晩年様式 深田 武志 編集委員 コラム 5月7日 年を取っても右肩上がりで高度な創作を続ける芸術家に興味を持つようになった。定年も近く、自分がくたびれてくると、そういう人たちから教わりたい気持ちが起こるようだ。そんなところに約20年ぶりの本格的なマティス展が、上野の東京都美術館(会期4月27日〜8月20日)で始まった。 30代後半にフォーヴィスム(野獣派)の旗手として絵画史に名を刻んだアンリ・マティス(1869〜1954年)はその後も息の長い創 芸術家マティスらに学ぶ 「老いの力」が生む晩年様式
文化財はだれのものか ロシア美術品の行方 赤川 省吾 ウクライナ侵攻 編集委員 コラム 4月30日 仏パリ西部、ブローニュの森の中を行くと、ギラギラした建物が忽然(こつぜん)と現れる。近代建築の巨匠フランク・ゲーリーによるルイ・ヴィトン財団美術館だ。手掛ける美術展はいつもパリっ子の話題になる。それでもロシアがウクライナに侵攻した2022年2月に開かれていた「モロゾフ・コレクション展」は特別だった。 印象派の画家、ルノワールの傑作「女優ジャンヌ・サマリーの肖像」などの名画を並べ、100万人超の入 文化財はだれのものか ロシア美術品の行方
侍ジャパンが示す「国の形」 篠山 正幸 編集委員 コラム 4月23日 野球日本代表が3度目の世界一に輝いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。中堅・1番打者として日本を引っ張ったのは米国生まれ、米国育ちの"侍"、ラーズ・ヌートバー選手だった。グローバル化による勝利は将来の国の形にヒントを与えてはいまいか。 大谷翔平選手(エンゼルス)らの活躍で日本は劇的な勝利を重ねたが、初打席で安打を放ち、守備でももり立てたリードオフマンを欠いたら、戦いはもっと厳しいもの 侍ジャパンが示す「国の形」
三重塔が宿す「国宝」の意味 竹内 義治 編集委員 コラム 4月16日 奈良の薬師寺で国宝の東塔(8世紀、三重塔)の落慶法要が4月21日から5日間にわたり行われる。約12年をかけた全解体修理が3年前に終わり本来は2020年4月に行う予定だったが、コロナ禍のため延期されていた。 今回の修理にあわせて2層目に納めたものがある。結縁者が「お写経」した経典で11万5000巻に上る。「お釈迦様の思想を伝える経典は『法舎利』と呼ばれる」と加藤朝胤管主が教えてくれた。仏塔は仏舎利 三重塔が宿す「国宝」の意味
AI時代、アートに作者は不要か 石鍋 仁美 Think! 編集委員 コラム 4月9日 「芸術は死んだ、勝負は決まった。人工知能(AI)が勝ち、人間は負けた」。2022年夏、米コロラド州の美術コンテストで、特段の絵心がない経営者が画像生成AIで絵を作り優勝した。これは米紙が伝える談話の一節だ。 優勝賞金300ドルのささやかなイベントだが優勝は優勝。報道と作品は世界を駆け巡った。ネット内の画像と付随情報を「学習」したAIに、ちょっとした言葉や文章、または元画像を与え画風を指定すると、 AI時代、アートに作者は不要か
日本のホテル文化は持続可能か 「おもてなし」の行方 大岩 佐和子 編集委員 コラム 4月2日 帝国ホテル東京のオールドインペリアルバーは、旧本館「ライト館」の面影を残す都内唯一の場所だ。壁のテラコッタや大谷石は当時のまま。「毎晩ここで過ごすことが学生時代からの夢だった」という常連客も多いという。いいホテルは瞬間的に消費されず、人生に影響を与える存在になる。 近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトによるライト館の開業から今年で100周年を迎える。「東洋の宝石」と称され、式と披露宴を一体化 日本のホテル文化は持続可能か 「おもてなし」の行方
梅安や鬼平、池波正太郎のキャラクターはなぜ「長寿」? コラム 3月26日 狙った相手に近づき、針で刺して人を殺(あや)める。表の顔は江戸郊外の品川台町に住む腕の良い鍼(はり)医者、裏では金ずくで暗殺を請け負う「仕掛人(しかけにん)」の藤枝梅安(ばいあん)。今年、生誕100年を迎えた作家、池波正太郎(1923〜90年)が雑誌「小説現代」72年3月号で連載を始めた「仕掛人・藤枝梅安」シリーズ(講談社文庫)の主人公だ。 早くも72年9月には「必殺仕掛人」のタイトルで、梅安役 梅安や鬼平、池波正太郎のキャラクターはなぜ「長寿」?