【野崎浩成】投稿一覧

野崎浩成
野崎浩成

野崎浩成

東洋大学 国際学部教授

東洋大学 国際学部教授

86年慶大経卒、91年米エール大院修了。あさひ銀行、シティグループ証券などを経て、18年から東洋大学国際学部グローバル・イノベーション学科教授。シティグループ証券時代に日経アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。
【注目するニュース分野】金融、銀行、証券

86年慶大経卒、91年米エール大院修了。あさひ銀行、シティグループ証券などを経て、18年から東洋大学国際学部グローバル・イノベーション学科教授。シティグループ証券時代に日経アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。 【注目するニュース分野】金融、銀行、証券

2023年

  • メガバンクや財務体力のある地銀などは、先行して債券評価損を実現させながら、金利先高を展望してポジションを軽くする余裕があります。こうした有価証券運営にかかわりなく財務パフォーマンスの実態を把握するためには、(実現損益と評価損益を反映した)包括利益を見ていくべきだと思います。しかし、満期保有目的有価証券(満保)に関してはその公正価値が包括利益に反映されないので、別枠でケアする必要があります。記事中で取り上げている三菱UFJの満保に関しては、1年で17兆円増えたので少々驚きましたが、それでも総資産の5%程度。SVBの43%と比較すると雲泥の差です。

  • りそなと新生が現状に至る差異について、ガバナンスに視座を置いた興味深い記事です。銀行は公益・私益双方からガバナンスを受ける特殊な業種です。前者は預金者の代理たる金融庁、後者は株主です。りそな実質国有化時には(通常緊張関係にある)2つのステークホルダーが国となり一致したのに対し、新生は国とJCFの緊張関係という捻じれ中での経営判断に迫られました。もう一つの違いは公的資金の条件です。りそなは注入額(いわゆる、簿価)を上回れば返済可能だったのに対し、新生は国会答弁(2000年参院特別委・谷垣大臣等)により5000億円回収という高いハードルを課されました。2つのくびきの差が今日に繋がったと思います。

  • 決済用預金の全額保護について、リテラシー向上の視点からも好記事です。個人・法人を問わず流動性準備の安全性を高めることは、資金決済など経済活動の屋台骨を支える部分として極めて重要です。その意味で(複数銀行への分散化に限界がある)多額の事業性資金を保護する日本の保険制度は優れています。他方、預金金利の議論については、その高低を問わず「機会コスト」の認識の問題であり、事業円滑化を優先する発想が前提なら付利預金に資金を滞留させる必要性は薄くなります。極端な例ですが、バブル創成期に企業が財テクと称して余剰資金を有価証券投資に向けたのは、株式リターン等を機会コストと誤った認識をしたためだと考えられます。

  • 危機時の対応について、世論迎合的政策は国民経済的にネガティブな結果をもたらしたのが過去の経験です。公的資金で救済した例はりそなを始めとして数々ありますが、平成金融危機における公的資金の「損得」を集計すると1兆円以上の利益(注入額を上回る返済)となった一方、破たんに至った長銀・日債銀のわずか2行で18兆円もの実質的損失を来しています。ヒステリックに銀行救済を批判する声に耳を傾けすぎると、必ずしも国益に沿わない結果をもたらす一例です。
    他方、現在のように平時における公的資金のあり方は、記事の通り問題があります。特にコロナを名目に緩和された根拠法の中身では、銀行の経営規律に緩みを来す点を付記します。

  • 金利上昇による債券評価損拡大は昨年からの傾向ですので、サプライズではないのですが、地域金融機関の有価証券投資の在り方については、規制上の取り扱いも含めて再考の余地を感じます。
    地域銀行の多くは海外に支店を持たない「国内基準行」で、有価証券評価差額を自己資本比率(コア資本比率)に反映する必要がありません。このため、リスク管理能力や財務体力を超えた有価証券投資を行う経営行動に出る危険性を規制上、排除できません。当局はモニタリングを行っているものの、十分な規律付けができるか疑問が残るところです。

  • 第3四半期までで、1.9兆円の純利益規模(三菱UFJのユニオンバンク特殊要因を除けば2.2~3兆円規模)であったため、2.5兆円は想定ラインと言えましょう。内容的には、国内貸出利ザヤが相変わらず低迷する中で、海外の利ザヤが改善、海外での手数料収益も好調で、本業収益が順調に積みあがっていると思います。
    他方で注意すべきなのは、海外での不動産関連クレジットの状況。直接的なエクスポージャー(CMBSやノンリコースローン等)が多くなくても、周辺取引を経由した損失発生リスクには要注意です。国内におけるポストコロナリスクについては、メガバンクというよりは、地域金融機関の影響が相対的に大きいと思います。

  • 停止の決断は評価すべきです。3月にもこの「Fujitsu MICJET コンビニ交付」のトラブルがあり、判断が遅いとの批判もあろうかと思いますが、3月末時点ではシステム一部改修による対応が取られており、GW中の再発により迅速な判断に至ったものです。
    個人情報に係ることですので、この事案は重大です。ただ、普段から感じているのが、銀行や行政のシステム障害に対して、世の空気が過度な批判に傾きがちであるということ。システムの不具合は確率に発生しうるものです。無謬性を追求しすぎると、新しいIT革新の目を摘み、挑戦による飛躍的DXへの道を閉ざしかねない点を認識すべきではないかと思います。

  • 経営者保証は、日本でスタートアップが育たない一つの大きな要因です。「会社が潰れて一家が路頭に迷う」というのが日本でよく語られる事業失敗のストーリーですが、かの国では、4回も会社を潰した人物が大統領に昇り詰めるくらいに、失敗が許容されるのが当たり前です。事業が倒産に瀕している状況で、その社長がフロリダでゴルフに興じるというモラルハザードを抑制するための効果は、確かに経営者保証にはあるでしょう。しかしそれ以上に、「事業の失敗=人生の失敗」という縛られ方は、日本の成長機会を奪う大きな弊害をもたらしていると思います。

  • 記事中で指摘されていた「(モラルハザードを防ぐため)イエレン財務長官が預金全額保護対象はSVB以下の規模」とした点が、急激な預金流出の主因だと思います。日本のケースでは、1995年から10年もの歳月をかけて預金全額保護の政策を段階的に解除(いわゆる「ペイオフ凍結解除」)していきました。アメリカにおいては、市場原理を歪める政府介入を必要最小限に留めて(預金者、銀行双方の)モラルハザードを排除する発想が根底にあるため、SVB破綻で英断と思われた預金全額保護の効果を希薄化してしまいました。預金者の心理を見誤った感があります。

  • 松下幸之助さんの時代から変わらず大切なのは、経営者と働き手の心の結びつきだと思います。お給料はキャッシュだという時代においては、デジタル化は経営者と働き手の報酬を通じたコミュニケーションを困難なものとするでしょう。しかし、エクイティ報酬(株式やストックオプション)が当たり前のものとなれば、経営者と働き手の視線の方向性は企業価値に向かうはずです。業績ばかりではなく社会的な存在感を高めることで企業価値を向上させるという共通目標を通じて、経営者と働き手のコミュニケーションが復活するものと信じています。