【伊藤さゆり】投稿一覧

伊藤さゆり
伊藤さゆり

伊藤さゆり

ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事

ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2019年7月から現職。修士(商学・早稲田大学)。早稲田大学商学学術院非常勤講師兼務。日本EU学会理事。主な著書に著書に『沈まぬユーロ』(共著、文眞堂)、『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)など
【注目するニュース分野】欧州経済、国際経済・金融

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2019年7月から現職。修士(商学・早稲田大学)。早稲田大学商学学術院非常勤講師兼務。日本EU学会理事。主な著書に著書に『沈まぬユーロ』(共著、文眞堂)、『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)など
【注目するニュース分野】欧州経済、国際経済・金融

2023年

  • EUの枠を超えた欧州の連携のための枠組みとして始動したEPC。
    今回の招待国は47カ国。欧州におけるロシアとベラルーシの孤立が際立つ。
    今回、ホスト国となったモルドバは、ロシアによる侵攻後、ウクライナとともにEU加盟を申請し、昨年6月にEU加盟候補国としての地位を得た国。
    これら2カ国とほぼ同時にEU加盟を申請したジョージアに対しては、EUは加盟に向けた努力を認め、加盟候補国としての地位を付与する用意はあるとしながらも、「市場経済の機能改善の取り組みなど、さらなる改革の推進を求めて判断を留保した。ジョージアの大統領は、今週、欧州議会で早期の加盟候補国の地位を求める演説をしている。

  • FRBとともにECBも「物価高は一時的」との判断からインフレ対応が遅れ、わずか1年で4%という幅の高速利上げを迫られ、不動産価格下落などを通じた金融システムへの影響が不安視される状況にある。
    植田日銀総裁は、4月会合後の記者会見での発言などから、拙速な引き締めで景気失速を招くリスクよりも、インフレの基調変化への金融政策の対応が遅れるリスクをとった印象だ。
    日本では、コスト削減努力による物価据え置きが長期にわたったからこそ、海外発の原材料等の値上がりの国内価格への転嫁、賃上げ率が、大方の予想を超える伸びとなったように思われる。
    サービス価格にも同様のことが起きる可能性を意識せざるを得ない。

  • EUは、対内直接投資や国家補助金に関する審査制度など中国を念頭に置いた規制の整備を進めてきた。加盟国のリトアニアが標的となった経済的威圧への対抗措置の実施を可能にする規則案でも合意済みだ。
    安全保障はNATO、経済面ではバイデン政権と立ち上げた「貿易・技術評議会(TTC)」を通じて連携する米国とEUだが、IRAのE V補助金問題など懸案事項が少なからず存在する。対イランなどで、米国がドルの力を利用した金融制裁を一方的に実施し、欧州企業が影響を被ってきた。米大統領政権後は、再び米欧の溝が深まる可能性もある。
    ユーロの地位向上、戦略産業の戦略的自立を推進、中国との対話も継続する方針だ。

  • 国内物価の押し上げ要因としての企業の利益確保の動きはECBも神経を尖らせている。
    米国とユーロ圏のインフレの原因、持続力、見通しをテーマとするECBのシュナベール理事の講演資料の12ページ目のGDPデフレーターへの寄与度を比較したスライドからは、
    https://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2023/html/ecb.sp230420~661bd5928c.en.pdf
    米欧ともに利益の確保が物価押し上げ要因となったことと、押し上げ幅は米国以上にユーロ圏が大きかったことがわかる。

  • 米EU関係はトランプ政権期に戦後最悪と言われるほど悪化した。
    「米EU貿易技術評議会(TTC)」は、バイデン政権発足後の21年6月に、「世界貿易、経済技術的課題へのアプローチを調整し、共通の価値に基づく大西洋間の貿易と経済関係の深化」を図るフォーラムとして立ち上げたもので、閣僚級会合は、今回が4度目。
    TTCは、インド太平洋地域のIPEF同様、 FTAの要素を含まないため、当初の期待は高くはなかったが、対ロシア制裁の輸出規制を検討に際して機能した他、進行技術での規制や規格協力、半導体供給網の強靭化など具体的取り組みも進展している。
    企業レベルの緊密な関係がフォーラムを支えているようだ。

  • インドのモディ首相は、広島サミットの後、バイデン大統領が政府債務上限引き上げ問題で断念したパプア・ニューギニアと豪州の訪問を予定通り行い、両国で厚遇を受けた。豪州でのインド系住民を集めた集会は、ロックスターのような熱気を放っていたというのが豪州、インドのメディアの報じ方だ。アルバニージー首相との蜜月ぶりも際立った。
    他方、G7期間中、中東ではアラブ連盟のサミットが開催、ゼレンスキー大統領も対面参加した。議長国サウジアラビアのムハンマド皇太子は、ロシアとウクライナの仲介にも意欲を示しているという。
    米中の対立に目を奪われがちだが、その間隙をつく形で、新興大国もそれぞれ影響力の拡大に動いている。

  • G7が「愛されない指導者のためのクラブ」であることは、米調査会社のモーニングコンサルタントの世界リーダーの支持率トラッカーからもわかる。
    同社の最新の調査結果では、G7の最高はメロー二伊首相の49%。以下、バイデン米大統領42%、トルドー加首相39%、ショルツ独首相34%、スナク英首相33%、岸田首相31%と続き、マクロン仏大統領が25%で最低。
    調査対象22か国で最も支持率が高いのは広島サミットでも存在感を発揮したモディ印首相の78%。同首相は広島の後、バイデン大統領が中止したパプア・ニューギニア、豪州を訪問、外交的な影響力を見せつけ、国威発揚と国内の支持固めにつなげようとしている。

  • Z/yenが年2回作成するグローバル金融センターのランキングの最新版(23年3月)では、NYがトップ、ロンドンが第2位、シンガポールが第3位、香港が第4位、東京は21位に沈んだ。
    米中の主要都市が上位に位置する他、英国のEU離脱で業務や人材の移管先となった欧州の金融都市の評価が上がった結果だ。
    都市国家のシンガポールは、グローバルなビジネス拠点化を目指す国家戦略に加えて、多民族・多言語国家で成長著しいASEAN、インドに近接する強みがあり、国際性では日本は太刀打ちできない。
    東京市場の地位向上では、国際性で競い合う以上に、日本経済、円の市場としての魅力を高めることが重要だろう。

  • タイトルにある「地産地消」はEUでは「戦略的自立」と称する。
    ここで紹介されるCBAMの他にも、米国のIRAのEV補助金に反発したEUが、実は研究開発等にはIRAに匹敵する補助金枠を有する上に、コロナ対応でグリーン、デジタル投資を促進する「復興基金」を創設、さらにクリーン技術への補助金規則を緩和し、梃入れしようとしている。
    半導体でも欧州版CHIPS法をまとめた。
    一方、欧州の大企業は中国で展開するビジネスを拡大しつつ、リスク削減のためにその他地域と分離する「中国化」を進める傾向が観察される。
    世界の供給網の北米、EU、中国の3極化の流れに、日本がどう食い込んで行くのか問われていると感じる。

  • モディ首相は、広島の後、パプアニューギニアを訪れて太平洋諸島フォーラムに参加、その後、オーストラリアを訪問する。バイデン大統領が債務上限問題への対応のためにキャンセルした2か国への訪問をモディ首相は予定通り行う。
    国際通貨基金(IMF)が年2回更新する「世界経済見通しデータベース」の最新版は2028年までの予測が示されている。名目ドルベースのGDPを比較すると、かつてアジアで圧倒的な大国だった日本は、2010年に中国に追い越され、その差は拡大し続けてきたが、2027年にはインドと10か国からなるASEANの合計の経済規模が日本を上回る。アジアに生じている変化は、中国の大国化だけではない。