【白井さゆり】投稿一覧
2023年
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クレディスイスが発行するAT1債が無価値になり、普通株が無価値にならずに救済されることになり、欧州で動揺が広がっている。一般的には銀行破綻などの際には、普通株とAT1債が無価値になり、預金者や他の債券(シニア債)などを保護することになっている。しかし今回の債券条項において、特別な有事の際に、株式より前に一部か全額を損失吸収に使われる可能性が記されているため、今回、AT1債権者が株主より先に損失を吸収する結果となった。それでもAT1債権者の不満が大きく訴訟になる可能性があるようだ。問題はAT1債の市場規模が大きく、これを契機に欧州の銀行の資金調達が難しくなり、貸し渋りにつながる恐れがあることだ。
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生産性が低いのは、全体として未来型の設備投資を積極的に行なっておらず資本ストックの蓄積が進んでいないことやイノベーションが限定的だったことが原因だと思います。一方、国内では高齢化も進み需要はさほど伸びない中で過当競争が起きています。企業が稼ぐ力を高めるには世界ををリードする不断の技術革新と開発力が必要です。今後高齢化が一段と進み伸び悩む国内需要を低金利で支え続けるのか、それとも2013年前の状態に戻す方向に舵を切るのか、新体制の判断がまたれます。ただ2%目標を掲げて今以上の柔軟化・正常化する場合、それを強力な金融緩和というのは論理的に難しいでしょう。下記のリンク先で論点を整理しています
https://www.nikkei.com/nkd/theme/1932/news/?DisplayType=2&ng=DGKKZO6920072013032023KE8000
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クレディスイス問題は、金融当局が指摘するように米国のシリコンバレー銀行などの問題とは本質的には異なる。ここ数年米ヘッジファンドとの取引にかかる損失や投資ファンドの閉鎖、マネロン、顧客データ流出など多くの経営上の問題があったところに、3月14日に過去の財務報告書で重大な脆弱性があると発表した。その時期が米国で地方銀行問題が起きていたタイミングとかさなり欧州銀行への懸念が高まった。欧米で利上げが進められている時期だけに、銀行の債券保有に対する金利リスクが意識されており、欧州の銀行の資金調達に影響するかもしれません。状況によってはスイス中銀だけでなく必要に応じてECBも対応を検討するかもしれません。
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全銀行の預金保護とFRBによる優遇条件での流動性支援により、今後の銀行からの預金流出は回避できる可能性がある。しかし、シリコンバレー銀行など地銀の破綻があったことで、中小企業やスタートアップ企業の資金調達費用が上昇しそれによる景気後退懸念が一段と高まっている。それが成長見通しの下押しと利下げ期待につながっている。シリコンバレー銀行ほど極端なバランスシート問題を抱えている地銀は少ないが、債券の評価ロスにより自己資本が少なくなっている銀行は多いので貸し渋りが起きる可能性がある。ただ、もし預金流出が止まり金融株式市場が落ち着いた場合には、インフレ退治のために0.25%程度の利上げをするのではないか。
白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
慶應義塾大学総合政策学部 教授
国際派エコノミスト。国際通貨基金(IMF)エコノミストや日銀審議委員を歴任。金融政策や国際金融に精通し、脱炭素・ESGに詳しい。多数の海外メディアに英語で情報発信し多くの国際会議で講演。パリ政治学院客員教授、アジア開発銀行研究所の客員研究員も務めた。2020-21年には英国のESGスチュワードシップサービス会社EOS at Federated Hermes上級顧問を兼任。米コロンビア大博士(経済学)。
【注目するニュース分野】金融政策、ESG投資・経営、国際経済
国際派エコノミスト。国際通貨基金(IMF)エコノミストや日銀審議委員を歴任。金融政策や国際金融に精通し、脱炭素・ESGに詳しい。多数の海外メディアに英語で情報発信し多くの国際会議で講演。パリ政治学院客員教授、アジア開発銀行研究所の客員研究員も務めた。2020-21年には英国のESGスチュワードシップサービス会社EOS at Federated Hermes上級顧問を兼任。米コロンビア大博士(経済学)。
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