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記者会見で「パナソニックは何の会社か?」と問われて津賀前社長が、「自問自答中」と答えたことが話題になって5年。パナソニックがいよいよ、車載電池事業で乾坤一擲の勝負に出るタイミングが来た。最初は市場をリードするが、その後、大規模投資で劇的なコストダウンを図る中・韓・台湾勢に追いつかれ、やがて敗れていく日本企業の「負けパターン」を覆せるか、期待が高まる。以前と異なってパナソニックに追い風なのは、間違いなくEV市場が今後急速に拡大し、車載電池需要の急拡大が始まるまさにその入り口に立っていること、そして記事指摘のように、地政学的環境が日本企業に有利になってきている点だろう。あとは、楠見社長の決断力だ。
【諸富徹】投稿一覧
2023年
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現在、少子化対策でもっぱら児童手当の拡充が話題だ。しかしそれだけだと結局、少子化の根本原因は放置され、期待された効果を生まずに終わりかねないという危機感を桜井・藤波両氏から感じる。雇用不安、低賃金、学費ローン返済などで若者は将来を見通せず、家族形成の余裕を失っている。その矛盾はとくに、非正規労働者に集中する。加えて女性がキャリアか子育てか二者択一を迫られる状況が出産・育児の断念を加速させる。遠回りだが同一労働・同一賃金の徹底を通じて非正規雇用の待遇を改善すること、女性がキャリアを断念せずに子育てできる仕組みをつくり上げることが肝要で、それらは格差を是正しながら生産性を引き上げる途でもあるのだ。
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近年、G20に取って代わられた感のあったG7でしたが、そのG20もロシアのウクライナ侵攻以降、共同声明を出せない状況です。その間隙を縫って広島サミットは、G7会合に新たな意味を付与し、その再活性化に成功したように思えます。成功要因はG7だけの会合とせず、選び抜かれた招待国との間でグローバル課題について共通認識を形成する場に転換した点にあるように思います。実際、インドのモディ首相など招待国の存在感と、彼らの参加する拡大会合の重要性が大きく高まりました。G7だけでグローバル課題を解決できないからこそ、グローバルサウスをはじめとする招待国との連携強化を図る場としてのG7が改めて重要になる気がします。
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今後、人類が生き残ろうとする限り、脱炭素技術・サービスへのニーズは拡大の一途を辿るに違いない。だとすれば、それをビジネスに転化する気候テック投資の奔流も止まらない。欧州と日本の差があるとすれば、それは「社会全体の環境意識が高く、企業間取引での脱炭素への理解が深い」点だろう。こうしたミリュー(雰囲気、環境)のある場所に、気候テックは育つ。とはいえ日本でも、三菱商事が国内最大級の脱炭素ファンドを立ち上げるとのニュースが先日あったばかり( https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC193SK0Z10C23A4000000/ )。この3年間で日本企業の脱炭素化への意識は劇的に変わったと実感する。日本でも条件は整いつつある。次は日本で、気候テック領域のユニコーン誕生を期待したいものだ。
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産業界がカーボンプライシング(CP)の導入を嫌うのは、各国共通です。日本に特徴的なのは、それでもCPを押し通す政府の意思の弱さであり、CP導入を後押しする国会勢力が小さ過ぎることでしょう。その背後には、CP導入が産業競争力を低下させるとの通念があります。しかし、緩すぎるCPや規制は逆に、日本企業の脱炭素製品・サービスの開発を遅らせ、脱炭素型ビジネスモデルへの転換に向けた経営者の決断を鈍らせたのではないでしょうか。心配なのは、日本企業の競争力低下です。EV開発に遅れをとり、急拡大するEV市場で苦戦する日本企業の姿は、世界の脱炭素化に向けた潮流を読み誤った日本企業が直面するリスクを体現しています。
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各国とも脱炭素時代に向けた産業創造と戦略物資のサプライチェーン確立に向けた仁義なき競争に入りました。インフレ抑制法はEV、再エネ、電力系統、水素投資に巨大なインセンティブを付与し、米国経済をあっという間に脱炭素経済に転換させ、関連産業を立ち上げる強力な手段です。EUも対抗して、今年2月に「ネットゼロ時代に向けたグリーンディール産業計画」を発表しました。目的はやはり、21世紀脱炭素経済の死命を制するクリーンテック産業の振興と戦略物資の域内調達の確保です。中国も同様です。世界大での最適な産業配置の時代から、急速に自国中心主義的な産業政策に切り替わっています。日本はどう向き合うのか、問われています。
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2020年代に脱炭素技術の商用化を目指す企業に投資すれば、30年代には回収できると三菱商事は踏んだのでしょう。脱炭素化に必要な技術開発にほぼ目途が立ち、劇的なコストダウンが20年代に進めば、30年代にはその商用化が視野に入るというわけです。実際、今年1月のダボス会議に提出されたLSEのスターン教授らのレポートも、脱炭素技術の多くは20年代に普及拡大の転換点を迎え、その投資機会は「産業革命以来で最大」であり、新しい成長の物語が創出されるとしています。だとすれば21世紀の一国/企業の競争力は、脱炭素技術の獲得とそれをめぐるビジネスで誰が支配的になるかで、決定的に左右されるということになるでしょう。
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都市景観の維持と都市経済の活性化の両立は難しい。京都は厳格な高さ制限の下で建物の更新を促したが、うまく行かなかった。容積率緩和で開発事業者が得る高収益が、再開発へのインセンティブになっているのが現実だ。古ビルをイノベーションしながら使い続ける方法もあるが、オフィスや商業空間としてのビルへの要求水準は高まる一方で、昭和時代のビルが一新されて洗練された街が突然、出現する経験を多くの人が持っているはずだ。だがそれは、街の景観を大きく変える。問題は、無限の容積率緩和は困難だという点だ。半世紀後、老朽化した超高層ビルやタワマンの建替えに、さらなる容積率緩和を許可してよいのか現時点では誰も分からないのだ。
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人口減少で進んでいた経営悪化が、コロナ禍でさらに加速した。今後、独立採算制が一層困難になるのは間違いない。投資余力がなくなってサービス低下と設備老朽化が起き、乗客がさらに減って収入源を招く悪循環を避けるには、地域で小さくなったパイを奪い合うのではなく、交通モードの垣根を超えた協力が必要だ。具体的には、交通モードを超えてスムーズな移動を可能にするダイヤ編成、交通インフラの構築や利用の共同化、非鉄道収入源開拓のための共同事業などを模索する必要がある。ドイツのシュタットベルケのように、地域の総合インフラ企業が交通とエネルギーを傘下に置いて、エネルギー事業で稼いで交通を支えるビジネスモデルもありうる。
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「禍転じて福となす」のかもしれません。将来的にJR東は「利益率1%の鉄道事業を傘下にもつ高収益デジタル企業」に変貌してもおかしくないと思います。人口減少下の日本では、鉄道業は残念ながら「ジリ貧」のビジネスです。不動産業に注力する電力会社が多いですが、Suicaの情報基盤をもつJR東はデジタル企業化の可能性があります。IT企業と異なって鉄道、商業、流通などリアルな世界のデータ基盤をもち、人流や購買行動と属性を結び付けた分析を通じて、ターゲットを絞った的確なサービス提供も可能でしょう。パンデミックや災害時の活用も可能で、「公共財」的な性質も帯びます。JR東のビジネスモデルの大胆な変革を見たいです。
諸富徹
京都大学大学院経済学研究科 教授
京都大学大学院経済学研究科 教授
エネルギーと税制をグローバルな視点から解き明かす。専門は財政学、環境経済学。京大再生可能エネルギー経済学講座の代表を務め、脱炭素や電源の分散化を提言。カーボンプライシングや経済協力開発機構(OECD)によるデジタル課税などの制度設計にも詳しい。国際課税を分析した『グローバル・タックス』(岩波新書)、『資本主義の新しい形』(岩波書店)など著書多数。1968年生まれ、京大博士(経済学)。
【注目するニュース分野】環境、エネルギー、税制
エネルギーと税制をグローバルな視点から解き明かす。専門は財政学、環境経済学。京大再生可能エネルギー経済学講座の代表を務め、脱炭素や電源の分散化を提言。カーボンプライシングや経済協力開発機構(OECD)によるデジタル課税などの制度設計にも詳しい。国際課税を分析した『グローバル・タックス』(岩波新書)、『資本主義の新しい形』(岩波書店)など著書多数。1968年生まれ、京大博士(経済学)。
【注目するニュース分野】環境、エネルギー、税制