【吉田徹】投稿一覧

吉田徹
吉田徹

吉田徹

同志社大学政策学部 教授

同志社大学政策学部 教授

1975年生まれ。慶応義塾大学卒業後、JETROを経て東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。北海道大学法学研究科教授などを経て20年より現職。フランス国立社会科学高等研究院日仏財団リサーチ・アソシエイト、シノドス国際社会動向研究所理事。専門は比較政治学。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書)、『くじ引き民主主義』(光文社新書)、『居場所なき革命』(みすず書房)など多数。
【注目するニュース分野】欧州政治、EU政治、政党政治

1975年生まれ。慶応義塾大学卒業後、JETROを経て東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。北海道大学法学研究科教授などを経て20年より現職。フランス国立社会科学高等研究院日仏財団リサーチ・アソシエイト、シノドス国際社会動向研究所理事。専門は比較政治学。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書)、『くじ引き民主主義』(光文社新書)、『居場所なき革命』(みすず書房)など多数。
【注目するニュース分野】欧州政治、EU政治、政党政治

2023年

  • 基本的に南欧諸国は伝統的に家族同居の割合が高かった。これは必ずしも経済的影響ではなく、家族を大切にするカソリック的価値観による文化が背景にある。ゆえに出生率にも影響する。他方で英米で起きているのは若年層の困窮化による同居現象で、別側面だ。ピューリサーチは収入、家、家族など親世代が同年齢で得たものをその子供達は獲得できなくなっているという。日本でも同様の傾向があるが、そこで資本になるのが家族。ここから家族という呪縛から逃れられないという悪循環も生じていることだろう。

  • ホンダF1全盛期のセナ・プロ世代としては、ホンダが復帰と聞いただけでテンションがあがる。日本人選手の伊佐進一がアストンマーチン=ホンダのドライバー席に座る可能性もある。
    もっとも、80-90年代ほどのブームは期待できない。日本もそうだが、F1放映は、他の多くのプロスポーツ同様に、放映権高騰の影響もあって、もはや地上波でみることができず、専門チャンネルと契約しないとならない。ここから裾野が広がることはないだろう。その昔、日曜20時のゴールデンタイムに日本GPを放送(それまでレースの結果は伏せられた)する、という時代はもはや遠い過去のものだ。
    それでもなお、ホンダのF1復帰は歓迎したい。

  • バイデン政権による「民主主義対専制主義」という「価値観外交」ではなく、しばらく前から国連の場などでも提示されていた「法の支配」というアプローチでもって、グローバルサウスへの接近を試みたことは成功といえるだろう。さらに岸田外交がこだわった核廃絶・使用抑制のメッセージも発することができた。またゼレンスキー大統領のサプライズ参加もあって、全体的には大成功のサミットではないか。
    ただサミットで合意できるものを合意したからといって、世界情勢が一変するわけではない。西側の結束がかつてないほど求められている状況で、その成果がいかほどのものか、検証し続けるべきだ。

  • 7月14日の革命記念日(日本ではパリ祭と呼ぶが)という一大イヴェントに招かれることもある「名誉参加国」が今年はインドとなったということだが、2017年には(トランプ下の!)アメリカ、2018年には日本とシンガポール、昨年はウクライナ戦争を受けて東欧諸国が招待されている。
    「同盟すれども追従せず」-フランスのドゴール以来のアメリカとの距離の取り方だ。言い換えれば、冷戦時代から、フランスはいかにして米ソ、そして今では米中に対して自律性を確保するのか、軍事面ならず、経済面でも腐心してきた。よって、アメリカが中国を見据えて欧州に近づこうとすればするほど、フランスはそこから距離を取ろうとするだろう。

  • 理解増進法は、もちろんないよりあった方が良いが、それでも2つの点で大きな問題がある。ひとつは法案にある「不当な差別」という文言だ。「差別」は「差別」であって、これに正当なものなどない。さらに外圧を利用してG7前に駆け込み・押し込みで可決させることは、結果的にLGBT+のことを考えて成立させたものではないという印象を抱かせる。価値に関わるものであるだけに、当事者を交え、もっと丁寧に本質的な議論がなされるべきだった。

  • 日本の人口は2050年に9500万人、いまより25%程度減少する。これだけの人口減は14世紀の欧州でペストが流行して以来の「歴史的出来事」だ。
    しかしペストによる労働力不足があって、欧州の労働者の賃金は上昇し、これが封建制度の崩壊の一因になったとも指摘されることもある。よって、緩やかな賃金上昇は今度も継続していくことになるだろう。
    もちろん、問題は経済だけに留まらない。人口減は社会保障、インフラ、政府の規模などに大きな影響を及ぼすことになる。少子化対策以上に「人口減対策」を長期的に考えるべき時期に来ている。

  • 公明党もそうだが、無党派層・現役世代が支持者のコアを占めるという意味では、維新の躍進でもっとも煽りを食らう可能性があるのが国民民主党だ。他方で立憲民主党支持者は、維新支持者と重なり合わない。
    国民は、政策的に自民党と立憲との間に立つことで存在感を発揮しようとしてきたが、そこに割って入ってきたのが維新ということになる。さて、国民民主は「古巣」に戻るのか、維新の「補完」となるのか。もっとも優れているように思われる政策を掲げる政党のひとつである国民の難しい判断が迫られている。

  • リクルートワークスの調査(2020)によると、日本人で転職で年収が増加した割合は45%、これに対して米は77%、仏は75%、中国では89%にものぼる。日本では「減った」とする割合も18%ある。その背景にはそもそも賃上げを求めるという習慣がないことも作用しているだろう。
    本来的な転職による年収増は、スキル能力によって決まるものだ。しかし日本の現在のそれは人不足がプル要因になっている。ジョブ型が浸透しない限り、一部業務で賃上げが続き、賃金格差が拡大する可能性もある。

  • 近年、日本のみならず、世界で政治家が標的にされる事件が相次いでいる。ブレグジットの際に労働党女性議員が殺害されたことは記憶に新しいが、他の欧州国では政治家への暴言や暴行はほぼ日常茶飯事といってよい。これもまた民主主義の機能不全の兆候だ。投票という民主主義の根幹をどう維持するかも重要だ。「政」は「まつり」とも読む。ネットと個人の時代にいかに集合的な熱狂と集団的な行動を促すのか。そのためには、依然として身体的接触が重要であるという点は集団心理学などが明らかにしてきたことだ。マキャベリの議論を借りれば、政治とは公共のために身を打って投げだす高貴な職業だ。その「危険性」こそが民主主義を駆動させる。

  • SHEINのポップアップ・ストアがパリに出現、若者たちが行列を為している(映像はこちら https://www.bfmtv.com/paris/paris-malgre-les-critiques-la-boutique-ephemere-shein-attire-de-nombreux-clients_AN-202305070163.html )。中には、人権問題を抱えていると知りながら、SNS上での自慢に耐えきれない者もいるという。
    安さが魅力なのはもちろんだが、インフレでの物価上昇の中、日本の100均と同じように、手軽に消費そのものを楽しみたいという要求、さらに話題のブランドということでSNSでの需要が相まって社会的現象になっているものと思われる。エシカル消費もそうだが、それが可能なのは十分に所得がある場合だ。そうした意味で中国の人権問題の一部を作り出しているのは先進国の消費者と、充分に所得を上げられない企業と政府なのかもしれない。