【植木安弘】投稿一覧

植木安弘
植木安弘

植木安弘

上智大学グローバル・スタディーズ研究科 教授

上智大学グローバル・スタディーズ研究科 教授

元国連事務局広報官。1982-2014年の国連勤務の間、広報局戦略広報部、事務総長報道官室、ナミビアと南アフリカで選挙監視、東南アジアの東ティモールで政務官兼副報道官、イラクで国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、津波後のインドネシアのアチェで国連広報官などを務める。1976年上智大学外国語学部露語科卒。米コロンビア大学大学院で修士号、博士号(Ph.D.)を取得。専攻は国際関係論。
【注目するニュース分野】国際政治、国連・国際機構、紛争解決、国際コミュニケーション・戦略広報

元国連事務局広報官。1982-2014年の国連勤務の間、広報局戦略広報部、事務総長報道官室、ナミビアと南アフリカで選挙監視、東南アジアの東ティモールで政務官兼副報道官、イラクで国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、津波後のインドネシアのアチェで国連広報官などを務める。1976年上智大学外国語学部露語科卒。米コロンビア大学大学院で修士号、博士号(Ph.D.)を取得。専攻は国際関係論。
【注目するニュース分野】国際政治、国連・国際機構、紛争解決、国際コミュニケーション・戦略広報

2023年

  • ゼレンスキー大統領による習氏へのウクライナ訪問の要請は、チャイナ・カードをどの程度ウクライナに有利に使えるかを試し、それによって、プーチン大統領を揺さぶろうとする狙いがあるのではないか。また、中国を引き込むことによって、中国のロシアへの武器供与を阻止することも出来る。場合によっては、イランによるロシアへのドローンなどの武器供与にも歯止めをかけることも出来るかも知れない。ウクライナは、春以降反転攻勢をかけ、地上戦を有利にしてからチャイナ・カードを使うことが考えられる。先ずは、外務レベルの接触があるかどうかを見てからの判断となろう。

  • 中東地域における米国の影響力の低下は今に始まったことではない。2000年代に入り、米国は4つの大きな失態をした。2003年のブッシュ(子)大統領によるイラク戦争は、結果的にイラクでのイランの影響力が拡大することに繋がった。2014年オバマ大統領がシリアの化学兵器使用で武力行使を止まったのは、結果的にロシアの地域における台頭を許した。2018年にはトランプ大統領がイランとの核開発協定(JCPOA)から一方的に離脱し、イランはウラン濃縮活動を再開させ、核兵器開発を促進した。2021年のバイデン大統領によるアフガニスタンからの撤退は、20年に渡る平和構築を無駄にした。中国はこの間隙を突いた。

  • 今回の岸田首相のウクライナ訪問は、遅まきながらやっと日本が国際政治の最前線に登場しそれなりの評価を得たという感じがする。この訪問によって、ウクライナ戦争が単に欧米対ロシアの対立構図だけでなく、東アジアを含む国際情勢に密接に関わっていることを直接示すことが出来た。「インド太平洋」という地政学的概念は既に古いように思え、むしろ法の支配を含む国際秩序の維持と自由民主主義といった価値を基調とした「グローバル・アライアンス」を戦略のベースにした方が現状に合っているかも知れない。

  • ICCの今回の逮捕状は、実行性はあまり無くロシアがローマ規程を受け入れていなくても、戦争犯罪の容疑で正式に出した意義は大きい。ICCは、戦争犯罪の調査で規程の手続きを踏んでおり、指揮系統の最高責任者を訴追出来る。現時点で訴追するのは難しいとしても、プーチン大統領が生きている限り責任は逃れられない。過去にも現職の大統領が在任中に訴追され、権力を失った後新政府の協力で裁判にかけられた事例もある(ユーゴスラビアのミロセビッチ大統領)。今回の逮捕状が将来の和平交渉にどのような影響を与えるかは分からないが、戦争犯罪の責任は追求しなければならない。

  • 今回のドローン事件は、クリミア半島南西約75マイル(120km)の国際空域で起きたとされている。ロシアの「特別軍事作戦」で防空認識圏を設定しているかどうかは別としても、国際空域での偵察活動は多くの国が行なっており、慣習国際法となっている。勝手に撃ち落とすことは出来ない。ロシアは、米国などの国際空域での偵察行動に対しては「威圧的措置」を取ることがあるとされており、今回は、そのような行為が許容範囲を超えた可能性がある。米国は偵察活動の継続を公表しており、ロシアも自重して、これ以上緊張が高まらないようになることが望まれる。

  • 今回のアンケート調査では考えさせられる点が幾つもあります。結婚や子作りを考える際に重要な判断が、将来に向けた収入の安定性や子育てとキャリアの両立です。日本の婚期が遅くなっているのも、この判断をするのに時間がかかっていることがあり、特に女性の場合には、キャリアに対する社会的な壁や子育ての環境が十分に整っていないことにあるでしょう。ある友人の女性が、子育ての両立と満足のいくキャリアを求めて米国に飛び出したと言っています。先進国における少子化は避けられませんが、日本の場合社会全体が変わらないと問題の解決は難しいでしょう。もっと他の先進国から学ぶ必要があります。

  • 人々の幸せを社会や国民の発展の基準にするという考え方は、ブータンの国王が1972年に新たに国家目標に掲げたもので、2012年には国連総会決議でも開発への包括的(holistic)アプローチとして考えるべきものとして採択され、3月20日が幸福国際デーとなっている。ブータンが進める「国民総幸福度(NGH)」の指標には4つの柱があり、1)持続可能で公平な経済社会開発、2)環境の保護、3)文化の保護と促進、4)良い統治で構成されている。当時GDPに変わる指標ということで各国の支持を集めたが、日本そしてG7もやっと国民の目線からの指標作りに気がついたと言える。

  • 東アジアの安全保障環境が一層厳しくなる中で、日韓関係の改善は、日本と韓国両国の国益になる。今回の尹大統領の決断は勇気のいるもので、一部の反対はあっても、国民の理解を得ることが望まれる。日韓首脳会談やG7サミットへの招待は、日韓関係改善の外堀を埋める意味でも大事であろう。日本もこの機会を逃してはならない。また、韓国の人達の訪日が増えていることも長期的な日本の理解と日韓関係の改善にとって役に立つことが期待される。

  • ゼレンスキー大統領にとって、和平への動きの中で譲れない一線があり、それは昨年2月以降奪われた領土の回復だろう。米欧諸国の新たな武器の搬入により春以降の再度の反転攻勢が予測されており、それが一段落するのが夏頃と考えられる。中国の和平案は中国得意の原則外交だが、それによってむしろロシアへの武器供給を躊躇せざるを得ず、ロシアにとっては不利になる可能性がある。ゼレンスキー大統領も中国の役割に期待するところはあるが、それはむしろロシア説得のためと思われる。戦況が不利になる中で、プーチン大統領が妥協に応じることは考えにくい。中国は大国としての外交力を発揮したいだろうが、その舵取りもそう簡単には行くまい。

  • 共和党内の一部保守強硬派がウクライナへの支援削減の動きをしているのは今に始まったことではないが、ロシアの長期戦を促すようなもので、危険と言わざるをえない。トランプは自分が大統領だったらロシアの戦争は起きなかったとしているが、逆を言うと、ウクライナはロシアのものだから米国は干渉しなかっただろうと言っているのに等しい。プーチンはトランプの再選を期待して当面軍事攻勢をかけ続け、米国のつまりNATOのウクライナ支援を止めさせることを狙う。共和党の多数はウクライナ支援の立場であり、ごく少数の自らの利益のみを考える強硬派を抑える努力をする必要があろう。